第7話 伝えたいこと
———それからというもの、高校での直輝は宣言通り朝陽に告白をしまくった。
「こんにちは。約束通り来ましたよ、白城さん」
「そっちが勝手に屋上に来てるだけでしょ」
「はは、確かにそうかもですね。でも、居てくれて嬉しかったです」
「…………きも」
「僕は白城さんのこと好きですよ? 付き合ってください」
「うざい」
告白宣言した翌日、もしいなかったらどうしようと不安を抱えながら屋上へ向かったのだが、そこに朝陽は無事居てくれた。昨日と同様にコンビニで購入したであろう菓子パンを齧っていた彼女は、屋上に来た直輝の姿に気付いたのか、気怠げな表情で一瞥するとそっと視線を逸らす。
会話の中で軽いジャブとして真剣に告白もしたのだが、悲しいことに一蹴されてしまった。その後何を尋ねても口を聞いて貰えないまま屋上から去って行った為、そのまま一人でちびちびとお弁当を食べて一日目は終了した。ぴえんである。
「こんにちは、白城さん。今日も綺麗ですね」
「うざい。そういうの大して仲良くない相手から言われても気持ち悪いだけだから」
「あはは、ごめんなさい。でも本当ですよ?」
「はぁ……、真面目クンって案外プレイボーイなの?」
「そういうつもりじゃないですが……好きな人には、ただ一途なだけです」
「………………あっそ。別に興味ないけど」
「僕はもっと君のことが知りたいです。白城さん、僕と付き合って下さい」
「ムリ。キモい」
一週間後の昼休み。屋上に来て早々朝陽を褒めてみたのだが、真顔で
以前、公園にて容姿を褒めたら朝陽は嬉しそうにはにかんでくれたのだが、どうやら高校で喜色を浮かべてくれるようになるまでの道のりは長いようだ。
それに、これからは無闇矢鱈に歯に浮いたセリフを言うのは控えた方が良さそうである。危うく好色な遊び人であるプレイボーイだと疑惑を持たれてしまうところだった。
会話の途中にて告白してみたのだがまたもや一蹴。そのまま菓子パンを食べ終わると無言で去って行ってしまったのだが、少しでも話そうとしてくれただけでもとても嬉しかった。
これからもどんどん距離を縮めていこう、と改めて決意しながらその日は終了したのだった。
そして———、
「———白城さん、好きです。僕と付き合ってください」
「くどい。うざい」
「そうですか、残念です……」
「……つーかよく飽きないね。これまで何回も男子から言い寄られたことがあるけど、一ヶ月も続けて告白してきたのは真面目クンが初めて」
「本当ですか!? 光栄です!」
「いや褒めてないし」
高校にて朝陽に告白し続けること一ヶ月。いつもならば菓子パンを食べ終えるとすぐに無言で屋上から出て行くのだが、今回に関してはフェンスに寄りかかったまま、彼女の方から声を掛けてきた。
思わずテンションが上がってしまい満面の笑みと大きな声で言葉を返してしまったが、そこはなんとか許してほしい。
なにせ一ヶ月屋上に通い続けて告白するも、毎回「うざい、きもい、無理」の三単語を使い回されて断られるのだ。そして無言で屋上から立ち去る。
幾ら好意を抱く相手だとしても、そう何度も絶対零度な視線と気怠げな表情、そっけない態度をされるととても悲しい気持ちになるのである。
そんな冷たい態度を続けてきた朝陽が、告白をした後でも会話を続ける意思を見せてきた。放課後の公園では普通に話せていたものの、少しずつ精神的に疲弊してきていた直輝としては喜ばない筈がなかった。
「ねぇ真面目クン。前から気になってたんだけど」
「はい、なんですか?」
「……なんで、ウチのこと好きになったん?」
朝陽はフェンスに寄りかかったままの姿勢でぽつりと呟く。こちらに視線を向けていないとはいえ、静かな声音でそう紡いだ彼女の問いは真剣だった。
そっと視線を外した直輝は、青空にぷかぷかと浮かぶ白い雲を見つめながら軽く息を吐いた。
(好きになった理由、ね……)
彼女との出会いは直輝の妹である悠希がきっかけだ。公園で困っている朝陽に悠希が声を掛けなければ好意を抱くどころか、当時他人にはドライな性格だった直輝は一切の関心を向けることもなかっただろう。
そんな直輝が朝陽を好きになった理由。
公園のベンチで言葉を交わして、様々な雑談や互いの好きな食べ物や趣味といった趣味嗜好を打ち明け合って友好を深めた。遊び盛りな悠希の我儘に、文句一つ言うことなく付き合ってくれた。
そして何より———、
「———キミの笑顔に救われたから、かな」
「え…………?」
疑問の声を小さく洩らす朝陽に対し、柔らかい眼差しを浮かべる直輝。脳裏では、好意を抱くきっかけとなった彼女との出来事を思い返していた。
ドライな性格といえど、何度も朝陽と会っていれば親近感が
実のところ、直輝は自分の鋭い瞳にコンプレックスを抱いていた。高校では真面目な雰囲気を出すために伊達眼鏡をして不用意に怖がらせないようにしているが、小学や中学の頃はよく揶揄われたり距離を置かれたりしたものである。
そういった経緯もあり直輝が打ち明けた直後は、何故わざわざこんな事を言ったのか、別なアプローチを行なえば良かったじゃないかと後悔したものだが、言った直後に朝陽が掛けた言葉は、直輝の不意を突くものだった。
『———でも、ウチは格好良いと思うけど』
これまでの人生で初めて言われた、温かみのある言葉。初めて見る柔らかい笑みを浮かべながらともなれば、好きにならない筈が無かった。
朝陽からしてみればなんでもないような普遍的な言葉だったのかもしれない。しかし、それでも直輝にとってはその一言だけでとても救われたのだ。
それと同時に、初めての恋を教えて貰ったのだ。
「……なにそれ、真面目クンの前で笑ったことなんてないけど」
「まぁ一年生の頃の話ですからねぇ。もう、思い出させないで下さいよ。恥ずかしい」
「ウチの所為にすんなし。そっちが勝手に思い出したんじゃん」
「それもそうですね」
隣に立つ朝陽へ微笑んだ直輝は、その後弁当を掻き込むと急いで片付けてから立ち上がった。
そして彼女へとまっすぐに視線を向ける。
「白城さん、一つだけお願いがあるんですけど、良いですか?」
「は? 急になに?」
「明日は、裏庭のベンチで一緒にご飯を食べませんか?」
「…………?」
「伝えたいことが、あるんです」
軽く首を傾げながら訝しげな表情を浮かべる朝陽に対し、直輝はそうはっきりと告げる。
おそらくだが、こちらの真剣な様子が伝わったのだろう。暫く逡巡するような仕草を見せるも、最終的には首を縦に振った。
「……はぁ、わかった。でも、知らないからね」
「きっと白城さんのことですから、僕が周りからあらぬ噂を立てられてしまう可能性を考えているんですよね? 承知の上です」
「…………なんで、そこまで」
「言ったでしょう? 白城さんのことが、好きだからです」
直輝がそう言って微笑むと、朝陽はぎゅっと唇を真一文字に引き締めながら何かに耐えるような表情を浮かべた。それは羞恥か、ささやかな高揚感か。いずれにせよ、うっすらと頬が赤いのは気の所為ではないだろう。
「じゃ、じゃあ僕はもう行きますね……! そ、それじゃあ白城さん、また明日!」
「…………うん」
普段とは異なり、今回は気恥ずかしくなった直輝が朝陽を置いて先に屋上から出て行ってしまった。少々そっけない態度だが許して欲しい。
たんたんたん、と教室に戻る為にやや早歩きで階段を降りる直輝。
(せっかく朝陽が格好良いって言ってくれてるのに、これじゃあ卑怯だよな)
高校では真面目クンとして朝陽と接してきた直輝だったが、状況によって容姿を変えるなど卑怯なのではないかという考えが話をしていた途中で首をもたげていた。
正直にいえば、真面目クンとして朝陽に告白を続けてもし苦手意識の克服が失敗したとしても、公園での姿があるから大丈夫という最低な考えを持っていた事実は否めない。
今まで演じてきたとはいえこの姿も直輝自身のもの。勿論愛着はあるが、その反面このまま朝陽の前で彼女が褒めてくれたこの鋭い瞳を隠したままというのは、些か罪悪感があった。
だからこそ、
「明日、俺は朝陽の前で本当の意味で告白をする———!」
実は高校での直輝が、いつも公園で会っていた直輝だと告白する。改めて考えてみると本末転倒なのだが、気付いてしまった以上朝陽への告白をいつも通りに続行する訳にはいかない。
密かに覚悟を形作りながら、直輝は教室へと戻ったのだった。
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さぁ、遂に本当の告白を行なう決心をした直輝くん。
是非フォローや☆評価、♡ハート、コメントなど頂ければとても嬉しいです〜。゚(゚´ω`゚)゚。
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