第3話 好きになった理由
「ねーねー、なおちゃんげんきないのー?」
「んー? そ、そんな事ないぞー?」
「だってね、きのうからなおちゃんね、ゆうきがピーマンたべて、イーッてなったかおしてるんだもん」
「あー……」
直輝がギャル少女、もとい朝陽に告白して玉砕した次の日の放課後。妹である悠希を保育園まで迎えに行ってから、いつもの公園へ向かっていた。
初めて朝陽に出会ってからというもの、悠希を連れて公園に行くのは直輝の日課になっていた。シロツメクサの花冠を代わりに作ってあげた翌日、彼女と再び遭遇した時は大変驚いたものだったが、ベンチに座って話を聞くと妹さんは大層喜んでくれたらしい。
ありがとう、と口にしながら少しだけはにかみながら微笑んでいたが、なんとか役に立ったようで何よりだ。
それから、朝陽と様々な話をした。
自分の名前やどこの高校に通っているのか。家庭事情や、妹たちのことなどぽつりぽつりとだったが彼女は話してくれた。
どうやら朝陽の弟妹も歳が離れているようで、驚くことに五人姉妹らしい。幼稚園の年長さんである六歳の妹にその二つ下の三つ子姉妹、そしてその妹たちの一番上の姉、長女が朝陽のようだ。
因みに名前を教える際なのだが、直輝は下の名前しか教えていない。堅持という苗字が嫌な訳ではないが、いかんせん珍しい苗字なので教えてしまえば同じ同級生だということがバレてしまう。
生まれつき鋭い目付きなので、ドライな性格とはいえ無闇に怖がらせるのが嫌で学校ではワックスで髪を整えて伊達メガネをしているが、一応真面目な性格も演じているので制服が互いに同じとはいえ、真面目クンな堅持直輝と現在の自分が同一人物だと結び付けられる事はおそらくないだろう。
まぁそんなこんなで、高校の自分を隠したままの彼女との付き合いは、約一年にわたる。その過程で好きになってしまい、つい先日告白したのだが……今となっては何故あの時苗字を教えなかったのかと後悔している。
「そっか、わかっちゃうかー……。悠希は頭良いな……」
「えへへー! そうでしょー? じゃあね、ゆうきがげんきのでるおまじないしてあげるー!」
「おー、ほんとか?」
「なおちゃんしゃがんでー」
悠希に言われた通り目の前にしゃがむと、彼女は慈愛が込められた笑みをにこりと浮かべて直輝の頭をぽんぽんと撫でた。
「げんきもりもり! いたいのいたいの、とんでけー!」
「よっしゃ元気になったぞ悠希ー! サンキューなー!」
「きゃー♪」
目の前の天使に思わず理性を失いかけた直輝は、妹をぎゅっと抱きしめながら抱っこをしてぐるぐるとその場を回る。耳元で可愛らしくキャッキャと悲鳴をあげる悠希だが、可愛いは正義である。フラれて傷心だった心が完全に癒せた訳ではないが、そのようにテンションが上がってしまうのも仕方がなかった。
ひとしきり妹の笑顔を堪能すると、再び公園へ歩みを進めて無事到着。車に注意しつつ駐車場を横切りながら敷地内を二人で歩いていると、いつものベンチが見えてきた。
そこでは一人の少女が座りながらスマホをいじっていた。直輝たちが近づくと彼女はこちらに視線を向けるが、普段は気怠げな表情をしている顔を安心したかのように緩ませる。
———制服を着崩したギャル少女、白城朝陽がそこにはいた。
「やっほ」
「……おう」
「こんにちはあさちゃん! だっこー!」
「こんにちは、ゆうちゃん。良いよー、ほらおいでー」
目を細めた朝陽は悠希の身体をぎゅっと抱き締めると、背中をぽんぽんと優しく撫でる。その様子はまるで慈愛に満ちた聖女のように見えた。
暫くその仕草を続けていると、彼女はゆっくりと口を開いた。
「ねぇ、なおくん。どうして昨日は来てくれなかったの? スマホに連絡しても既読にならないし……、ずっと待ってたんだけど」
「あー、ちょっと充電が切れててさ、その上用事があったから来れなかったんだよ。ごめんな、朝陽」
「そっか……。ううん、無事だったのならそれで良いんだ」
「お、おう……」
こちらを見てふわりと笑みを浮かべた朝陽に、不意に胸が高鳴る。演じている姿とはいえ、告白を断られたのがショックで会えなかったというのは流石に理由としては女々しいだろうか。咄嗟に嘘をついてしまったが、まさか本当のことを伝えるわけにもいかないので許してほしい。
(にしても、ほんと可愛いよな)
最初こそぶっきらぼうで固かった朝陽の表情も、次第に打ち解けあっていくうちに態度と共に軟化していったというのが印象だ。
今では警戒心がなくなり、よく直輝に笑顔や柔らかい表情を向けるようになったが、それは出会ってから約一年間もの間、互いに信頼関係を築き合った結果とも云える。なおくん、と親しみを込めて呼んでくれているのがその最たる例だ。
朝陽からそう呼ばれるたびに、嬉しくて愛おしい気持ちになる。普段のダウナーな様子から不意に見せる笑顔も堪らなく可愛いので、きっとそういう部分でときめきを感じているのだろう。
思えば直輝が朝陽への好意を自覚したのも、初めて彼女の笑顔を見た時からかもしれない。
「それよりさー、聞いてよなおくん」
「ん、なんだ?」
「昨日、放課後にまた告白されちゃってさー」
「ぶっ」
タイムリーな話題に、思わず直輝は吹いてしまった。
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