第2話
「女神への虐待は犯罪です。今すぐ悔い改めなさい。いじめ、かっこわるい!」
大神殿の天井に逆さ吊りにされてぷらぷら揺れている女神アルテミジアが言う。
その女神の前で勇者と聖女と大神官が額を突きあわせて話し合っていた。
「つまり、本来なら俺が受け取るはずの「光の力」がルーシーに」
「私が受け取るべきだった「浄化の力」がサガに」
「「間違えて与えられてしまったということ」」
「そうなるのう……」
一拍の間をおいて、サガが叫んだ。
「ふざけんなっ! 俺は太陽の剣で魔王を倒すために修行してきたんだぞ!」
「落ち着いて、サガ!」
「落ち着いていられるかよ!」
「確かに、光の力がないと太陽の剣は抜けない……だったら、私が鞘から抜いて剣だけをサガに渡せばいいんじゃない?」
ルーシーが述べた解決方法に、サガと大神官は「その手があったか」と手を打った。
とりあえず、鞘から抜いてしまえば剣として使えるだろうと思ったのだが、試しにルーシーが鞘から抜いた剣をサガに渡すと、白金に輝いていた刃が輝きを失い、硬度も失って力なくへにょんと折れ曲がった。
『電池残量ガ不足シテイマス。充電ヲ行ッテクダサイ』
「喋った!? いや、ちょっと待て「光の力」って「電力」のことだったのかよ!?」
サガはへにょへにょになった剣を手に叫んだ。光の力の正体についても訊きたいことはあるが、それ以上に音声機能が付いていたことに衝撃を受けてしまった。伝説の中ではそんなこと語られていなかった。
「おい、クソ女神!」
「無礼な! 誰がクソ女神ですか!!」
「太陽の剣って千年前も喋ってたのか!?」
今さらどうでもいいかもしれないが、サガとしては確認しておきたい。先祖代々伝わっている魔王退治の伝説の中に出てくる台詞は勇者と聖女の言葉だとばかり思っていたのに、二人の会話に第三者が混じっていた可能性がにわかに浮上した。
勇「この戦いで……決めてみせるっ」
聖「私は最期まで貴方の傍にいます」
勇「聖女……君は逃げろ、生きてくれ」
聖「何を言うのです。そんなことをおっしゃらないで」
聖「私は貴方を強く強く信じています。鍛えられた刃のように強く」
勇「ありがとう……」
だと思っていた会話が、
勇「この戦いで……決めてみせるっ」
剣「私ハ最期マデ貴方ノ傍ニイマス」
勇「聖女……君は逃げろ、生きてくれ」
聖「何を言うのです。そんなことをおっしゃらないで」
剣「私ハ貴方ヲ強ク強ク信ジテイマス。鍛エラレタ刃ノヨウニ強ク」
勇「ありがとう……」
だった可能性が出てくる。ご先祖様達が草葉の陰で泣いてしまうだろう。
「千年前は喋っていませんでしたが……東洋では百年経った道具にツクモガミが宿るといいますから、千年経てば太陽の剣も喋るぐらいできるようになるのでは」
『マヂ無理……』
「伝説の武器が弱気なんだが!?」
へにょんへにょんな太陽の剣をルーシーに渡す。すると、剣はぴしっとまっすぐになり、ぱああっと輝きだした。
これが光(充電)の力か。
「太陽の剣を失った今、俺などただの剣が使えるだけの脳筋……帰っていいか?」
「駄目に決まってるでしょう!」
にわかに荷物をまとめだした勇者に、ルーシーが突っ込みを入れる。
「だって、俺ここにいても役に立たないし……勇者になれないなら早めに就職活動しないと……」
「だからって、私と剣だけ残されても困るのよっ!! 千年もの間先祖代々受け継いできた伝説の剣にもうちょっと執着しなさいよ! 切り替えが速すぎるわよ!」
あまりにも潔いサガに、ルーシーは太陽の剣をぶんぶん振りながら訴えた。
「勇者よ! 逆境に背を向けてはなりません!」
「「お前が言うなあっ!!」」
逆さ吊りのまま諭してくる女神に、勇者と聖女は怒りの声を上げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます