第6話 追憶 その2

 ふざけるなあああと叫ぶと同時にグレンの周りにバリバリと何かが迸り、地を蹴ったグレンは瞬く間にビッツの前まで移動しお腹を思いきり殴っていた。



  何も見えなかったビッツはそのまま真後ろに吹っ飛び2転3転転がり苦痛の表情で立ち上がることも出来ない。


  何が起きたか分からなかったが、実際グレンにビッツがやられた事実だけがその場に残った。


 グレンも自分に起きた変化に戸惑っていると取り巻きの1人が叫びながら、自分の宝具を化現させその宝具でグレンの身体を殴り吹っ飛ばした。


  ガンと衝撃を受けたあと、転がると右の方から胸の方に強い鈍痛が走っていた。




「お、おい、お前宝具使ったのかよ……」


「あ、あいつがビッツを殴ったからだ、俺は悪くない!」


  もう1人の取り巻きが心配するも、自分達の正当性を主張し、また大人達から叱られる時の為に理由をずるがしこく考えていく。


「ぐっ、」


(な、なんだよアイツ。身体が痺れて力が入んねぇ……)


  ビッツのうめき声に2人の取り巻きはハッと気づき、傍に近寄り介抱しながら村へと戻って行った。


 グレンを置き去りにして。




「ふーふーん。ふふ、ふーん」



「はっはっは、レオン!そんなに村に行くのが楽しみか!」


「はい、お父様!だっておとぎ話の人と会えるんですよ〜!楽しみしかありません!」


 西に続く道を1人の壮観な男とその息子。その後ろには大きな荷物車を引く馬と何人かの護衛が周りの森に目を配りながら歩いていた。



「はっは、護衛の者もそんなに気をはらんくても、魔物なぞ出てこんぞ?」


「は、はい!」


「ラインハルト様。そう言われましても。ここは魔の森ですよ?普通は部下たちみたいな反応が正しいですよ」


「レオンを見てみろ!あんな鼻歌を歌いながら悠々と進んでおるわ」


「かあーレオン様もまだ9歳なのに肝っ玉がでかいですわ」


 はっはっはと大きな笑い声を出しながら団体が村へと進んでいく。




「お父様!門が見えました!あれがあの一族の村ですか??」


 目をキラキラさせたレオンが父親に聞く。


「おっ、レオン!そうだ!あれ村の門だ!」




 はあーーと大きな息を吐く護衛達をよそに馬を颯爽と走らせる主人とその息子を目で送る。


「おい、お前らその荷物を村の中心のでかい家に運んどいてくれ!」


「え!隊長は?」と部下たちが首をかしげる中、当の本人はヒラヒラと手を振り靴を洗いに行ってくると門はくくらず、南の小川の方へと足を進める。




 そのまま足を進める小川で靴を洗っていると、どこらから何かの気配を感じ抜刀する。


「ん?気のせいか、。あん? 人かあれ……!」


 と急ぎ倒れ込んでいるグレンの傍に行き、つんつんと足で揺らした後、頬を叩いて起こす。


「おい!息はしてるな、こんな所で何が起きたんだ?」


 ほぐれた服の隙間から右肩から左胸にかけて大きな内出血が起きている。


 周囲を確認すると、僅かな魔力の粒子を感じた。


(魔物ではねえな、打撲だかこれ人がやったのか?こんな子供を?しんきくせえ。)




「う、く、だれ?」


「お、おお、起きたか!何があったんだ?ひでえ傷だぞそれ。誰かにやられたのか?親はいるのか?」


「く、いってぇえ。多少は手加減しろってんだよアイツら。あー大丈夫こんなの大したことないよ、何?孤児だと思ってる?」


 一瞬護衛の騎士はキョトンとしてから笑った。


「がはは、軽口も叩けんなら大丈夫だな!んでアイツらってどいつらよ?」


「その前にあなたは誰?剣なんてぶら下げて盗賊か何か?」




「こんな綺麗ななりした盗賊がいるかってんだ! 行商の護衛だよただの、名前はディーンだ」


「そっ、行商の人か。俺はグレン。とりあえず礼は言っとくよ。ありがとう。あとこれから村に行くんだよね?この事は誰にも言わないでよ。村の中案内するから」


 と立ち上がったグレンはいってぇと肩を抑えながら歩きだす。




「お、おい!なんでだよ?親がそれ見たら驚くだろうが!」


「大丈夫。良くあることだから。鍛錬の時の怪我って言えば納得するさ」




 グレンとディーンは村へと歩き出した。




 村の中では長老の家で、レオンとその父が向かい会って雑談をしていた。


「ほっほっ、まさか公爵様直々に来るとわびっくりしたのう」


「やめてくだされ、リュウゲン殿。様付けなんて滅相もない。昔のように名前で呼んでください。こっちが次男のレオンです。勉強の為に連れて来た次第です。2泊の旅ですが、どうぞよろしくお願い致します」


「リュウゲン様。レオン・ハートレイと申します。よろしくお願いします!」



「2泊か。だいぶ忙しみたいじゃのう。ほっほっしっかりとした子じゃのう。年齢は曾孫のグレンと同じくらいかのう?村を経つまで仲良くしてくれのう。してラインハルトや、3年ぶりじゃ、グレンも9歳。曾孫のエルティアも生まれ、アカシアも5歳になったのだ、顔を見ておくれ。」



「レオンも9歳とグレンと同じ年ですね。元気にしておりますかな?少し手合わせをしようかと楽しみにしてきましたわ。そーか前来た時はアカシアはまだ2歳の頃でしたなあ!可愛い娘も生まれて、センとレイは頑張っとりますなあ」



「ところで何か村の雰囲気が、踊っているように感じますが何かありましたかな?」


「ほっほっ鋭いのう。アカシアがの宝具を化現させたのじゃよ」


「宝具!あの宝具ですねえ!ほんとにあるのですね!」


 パァと笑顔見せたレオンの頭をラインハルトは撫で、優しい目で愛息子を見やった。



「それは、大層な時に来てしまいましたな!センもレイもさぞ嬉しいですな。レオン、広間にワシらの荷物を移動して待ってておくれ」


 はいと返事してレオンは部屋から出ていく。



「して、リュウゲン殿、グレンは宝具を化現させれたのかな?」


「それがのう。グレンはまだなのじゃ。グランより先にアカシアが宝具を化現させたのもあってのう」


「そうですか……。さぞ悔しいでしょうな。あれ程の戦闘のセンスを持ちながら、大丈夫ですかな?」


「グレンは心も強い子じゃよ。負の感情を押し殺し呑み込んで、満面な笑みでアカシアの宝具のことをワシに伝えに来たわい。一族の戦士として1番大切なものをグレンは持っておるのう」


「そうですなあ。3年前を思い出しますぞ。宝具が無くてもグレンは力を持って居ます。そしてあの力は宝具ではなく魔法の力だと思っています。もし壁にぶつかってしまったら私が力の使い方を教えますぞ」



「ほっほっこれは良い味方をつけれたのう。グレンは」


 ガハハと快活に笑い久しぶりの再会で会話の華を咲かせたのだった。

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