第5話 追憶 その1

  グレンが10歳になる少し前の頃、弟のアカシアは春に5歳を迎えた。


「アカシアおめでとう!」「おめでとうアカシア」「にいに、にいに」

 次々とお祝いの言葉が流れた。



「あ、ありがとう。みんな。とても嬉しいでひゅ!」


 顔を真っ赤にしながら答えるアカシアにみんな笑いながら祝って上げていた。



「もうお前も5歳だからな。これは父さんからだ」


 センからは大きな木刀を。


「これは母さんからよ」


 レイからは羽織るマントを。


「ほっほっ、ワシからはこれじゃよ」


 リュウゲンからはこの村の周りに関しての直筆の本を。




「わーー父さん、母さん、じいちゃんありがとう!大切にする!」




「あれ、グレンー??」


 母さんがムクっとこっちに顔を向ける。



「ちゃんと覚えてたよ。ほら、これ。綺麗だから首飾りにした」


「え、グレン兄からも! 凄い!綺麗」


 そんなアカシアの感動を横目に、ゴンッとセンがグレンの頭を叩く。


「ばかもん、それは魔石だろうが! また外に出たのか?」


「いっ、て、。なんで叩くのさ! 拾ったんだもん。綺麗だからと思って」




「北の山には魔物は出ないようにしてるのを知ってるだろ! 北の山以外に山に入ったんだろうが!まだ宝具も出とらんお前が魔物にでもあってみろ、すぐ死ぬぞ! 母さんに心配かけるな!」



  キョロキョロとアカシアがグレンとセンの顔を見る。


  エルティアも今にも泣きそうな顔になっており、母のレイがヨシヨシとあやしている。



「これこれ、センよ。宝具は関係無いのじゃないかのう。ほっほ、グレンは怖いもの知らずだのう。危なくない麓で取ったんだろうや。アカシアのために勇気を出したのう。偉い偉い。じゃがのう、魔物は日々強くなっていく。村の戦士や狩人でも死ぬことだってあるんじゃ。もう少し勉強して力を持つようになってから行っておくれ。じいちゃんも心配になってしまうのでなあ」



  グレンの手を包みながら、リュウゲンは話しかける。


  グレンも危険がないように考えながらやったことだったが悔しやら悲しいやらだった顔で頷いた。



「あーなんだ……。強くなれグレン」


「父さん、母さん心配かけてごめんなさい。気をつけるよ」




「ほっほっグレンは正直でまっすぐな子じゃのう。なあレイよ」


「ふふ、はい。リュウゲン様。グレン、アカシアにありがとうね」と微笑みグレンを見つめた。



  その後アカシアの好物の山りんごのデザートをみんなで食べて、グレンとアカシアは布団に入った。



「ふふ、見てグレン兄!キラキラしてるよ〜。今日大好きな人から貰ったんだあ」


「ふっ、その誰かさんは怒られたけどなあ」


「大切にするよ。ありがとう。おやすみなさい」


「おやすみ。」




  グレンは度々起きては、アカシアが蹴飛ばす布団をかけてやるのだった。




 そんな朝方すぎ、アカシアが震える声でグレンを呼んだ。


「え、え、グレン兄!こ、これ、」


「ん〜なに〜まだ眠いよ、アカシア……」




 また眠り足りないグレンをアカシアは強く揺らして起こす。


「まったく、まだ朝だぞアカシア。ってそ、それ!」


  アカシアの胸に大事そうに抱える1つの黒い剣が見えた。




「と、父さん!父さん!」とグレンは部屋から駆け出しセンを連れてくると、センは口をあんぐりと開けて驚愕した。




「ア、アカシア、それどうやって出した?」


「分からないよ、起きたら胸の上にあったの。これって何?」


「それが宝具だ、アカシア。父さんと母さんも出せる宝具って物だ。よくやった!偉いぞアカシア」




  アカシアを抱き抱え、嬉しそうに何度も偉いぞと褒め称えた。


  そんな様子をグレンは横目で見て咄嗟に顔を下げた。その顔には悔しさで涙を貯めていたのだった。




「おーい長!アカシアが宝具出したって?どんなの出したんだいいったい。良かったなあほんとに」


  時間経つと次々と村の一族の者から労う言葉が、センとレイにかかり嬉しそうにお礼を言い、「おい、長!パァと夜に飲もうぜ!」


 とセンの肩を叩いていた。



  そんな中ひとりグレンはとぼとぼ南の小川を歩いている。


(ちぇー、俺も早く出てきてくれよっ)


 


  そんな事を思っていると急に声をかけられビクッと体が反応した。


「おーグレンこんな所にいたのか!弟のアカシアの方が先に宝具出た見たいだなあ!兄貴のくせにみっともねえな!ははは」


「ほーんと長の息子なのにねぇ!可愛そ〜」




 村の14歳のビッツとその取り巻きだった。何かと宝具に関してグレンにちょっかいをかけに着ていた。


 最初は面倒見がいい兄貴分であったが、北の山で宝具を持たないグレンに走り込みで負けてから態度が一変した。




「そうさ!立派な弟だ!アカシアは今までで1番の戦士になるのさ!ビッツとは違ってね!」




「なんだと?グレン!宝具も持たねえヤツが何をいきがってだよ!」とグレンの肩を押して転ばす。




「ふん。情けねえ!おめえも弱いんだから、宝具出しても弟のアカシアも弱いんだろうな!ハッ何が長の息子だあ!」




 グレンは自分の事を言われても大概の事は我慢して流すことが出来ていたが、家族、ましてや弟の事をとやかく言うことに本人もびっくりするほど、怒りを覚えていた。


「おい、今なんて言ったんだよ。謝れ、謝れよ!」


 怒りが出るほどに、グレンの様子がおかしくなり、ビッツ達も反抗してきたグレンにびっくりし、顔が強ばった。




「な、なんだよ!本当の事を言ったまでだ!」「そ、そうだそうだ!」



「ふざけるなああああああ」


 グレンは叫ぶのと同時にグレンの周りにバリバリと何かが迸り、地を蹴ったグレンは瞬く間にビッツの前まで移動しお腹を思いきり殴っていた。

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