第4話 一族の異端児

(先祖返り……? よりによってなんで俺なんだ、!)


  10歳までに宝具が化現する一族の中で、宝具が化現しないグレンを周りの一族のもの達は良しとしなかった。一族の子なのかとセンとレイが居ないところで囁かれることもあった。それは自分の宝具に誇りを持ち、戦闘民族として戦ってきた血が思わせてしまっているのか。現当主の長子として責任や重圧がグレンには重くのしかかっていた。


「センの言う通り、グレンに一族と同じ血が流れているのは言うまでもないことじゃ。ワシも同じように考え疑問じゃった。しかしな、これを見てみい」


  懐から1枚の紙を出し、グレン、セン、レイに見せた。


  中に描かれていたものは、戦場の中で武器を持った者達と、魔族との戦闘をしている描写であった。角が生え、翼をはためかせながら飛ぶ人間のような面立ちとの魔族と、武器を持ち果敢に戦う戦士達がいる。

  その中で一層際立つのが絵の中央に描かれた1人の人間だった。雷が落ちてきたかのように迸る雷を纏い身体から光が線上に伸びていくように描かれ、目の前の魔族を蹴散らす姿であった。



「え……!ここに描かれているのは、?リュウゲンさん……」


「この武器を持って戦っているのは我らの一族だと分かるが、共に戦うこの光を纏っているのものも一族の者なのか、?」


「えっ!」


  グレン達家族は何かを気づいたようなそして、理解したくないと言うような顔で、絵を凝視している。


「その者は、まさしく我が一族の者じゃよ。そして、今のグレンと同じじゃないかのう?ワシもバレンティア王国に過去の戦について手がかりがあるかと思ってのう、長年聞いていたのじゃよ。そしたらのう、この絵が出てきたと言うわけじゃ。それと同時にこんな言い伝えも王国にはあったらしいのう」



  矛の一族の戦士達は、自らの武器と共に魔族の肉を断ち、盾となる王国の人間は矛の一族を護り、どんな魔法も打ち返した。しかし最後の敵は巨大で強大な力を持つ魔族であり、いくつもの仲間達を屍に変えた。

 矛と盾、共に絶望を感じていた時、矛の一族の戦士が1人、魔族の前に立ちはだかった。

 その者は雷と光を纏い、雷の如き速さで駆け、いくつもの武器を創成し、魔族を切り裂く。時には雷を手から出し魔物を蹴散らし勇敢に立ち向かった。最後に自分の命と引き換えにその強大な魔族を討ち取った。



「この言い伝えが王国にはあるそうじゃ。一族の言い伝えでは宝具を持つ者達の活躍しか伝わってない。しかし1つだけ気になることがあってのう。それはお主たちもよく聞いてきたことじゃよ。それは幼き子が悪さをした時に言う言葉があるじゃろう?」


  はっとレイは顔を上げ呟く。


「悪いことしたいけない子は心無しの魔が、心を食べにきちゃうぞ……」



 うむとリュウゲンは頷くとまた話し始める。


「そうじゃ。そもそもじゃ、心無しとはなんなのかじゃよ。心を持つと表現する魔物、魔獣は滅多にない。

 そして昔から宝具はその者の心が形を作ると言われておるな?そこから考えて見るとじゃ、魔物や魔獣ではなくそして心がない、言わば宝具を持たない一族の者の事を言っておると今さらながら思うのじゃ。


 王国に伝わる言い伝えが我が一族に伝わっていないのは、もしかすると、この絵の者が宝具を化現させる事ができずに一族から仲間と思われず心無しと言われた者なのかもしれんのう。


 我らは宝具が命であり誇りじゃ。そんな宝具を出せない仲間に救われた一族は、これを恥てこの言い伝えを記憶から消し残さなかったのかもしれぬ。そして心無しの言い伝えだけが残ってしまったのかのう。

 そして宝具が出せていないグレンと心無しは同じ状況にあると思うのじゃ。」



「そんなリュウゲンさん……。グレンは大切な私たちの息子ですよ!」


「おい、じいさん、予想だけで話して満足か?グレンが心無しだと!? ふざけるのも大概にしろ!! グレンは今も頑張ってーー」


  バンっと空気を震わすほどの力で杖を床に打ち下ろしリュウゲンはセンが喋るのを遮った。


  「子供に親の期待をかけ続け、前を向いてないのはどっちじゃ!! いつまでそうしているつもりじゃ!!やっている事はこの心無しと同じでは無いのか!?」



「くっ、 ! 何を言いやがる!! グレンは一族の俺の息子なんだ!! 心無しと同じだと!?」

 吠えるように叫ぶセンと、涙を流し続けるレイ。


「父さん!!母さん!!」

  そこにグレンの悲痛の叫びが響く。今までで聞いたことの無い声量でその場が静寂となった。

  グレンは涙が込み上げ流れるのを拭きながら話し始める。



「父さんも母さんも知ってるし、分かってるでしょ、?おじいちゃんが教えてくれた事は本当の事だって気づいてるんでしょ?だって、絵の描かれた人と俺の力は同じじゃないか!! もう分かってるよ……。俺が宝具を出せないことなんて、もう無理だって気づいてるんだよ……。宝具を出そうとすると必ず自分の身体から雷が迸って光りが溢れるイメージしか出てこないんだよ!いくら武器も道具もイメージしようとしても無理なんだ、。もう3年だよ、?無理言って3年も続けたんだ……」



  センとレイはグレンの心の想いを聞き、頭をガツンと殴られたかのような錯覚が起きる。

  10歳になる前からずっと笑顔で、宝具のことを楽しそうに語り、いつか自分も父さんや母さんのような宝具を授かるよと頑張っていた。宝具を持たなくてもグレンの成長の速さや肉体的、精神的な強さからセンとレイに限らず一族の者は期待をかけていた。


 しかし10歳を過ぎても、宝具が出なかったことで周りの目は期待の目から、悲観や軽蔑の目へ変わった。村でも初めてのことでセンやレイも、そんな目に少なからず気づいてはいたが、現当主であることから下手に動けない状況からどうすれば良いのか分からなかった。


  そんな時でもグレンは、俺が10歳越えて宝具を出す初めての人になるかもね!と前を向いていく姿にセンやレイは逆に勇気づけられていた。周りの目も段々とグレンのその姿から嫌な目をする者は少なくなったのだった。


  そんなグレンのいつも見せない悲痛な表情や想いを聞いて、センも自然と涙が溢れレイはより一層涙が流れていく。

  ガバッとレイは立ち上がり、思い切りグレンの頭を抱きかかえる。


  「グレン、グレン……。ごめんね、ごめんなさい。少しでも希望があればって、けど私がちゃんと向き合えてなかったね、グレンに甘えてた……」


「グレン。済まなかった、。お前に辛い想いをさせ続けたな……。なのに俺は、!」

  センもそんな2人を一緒に抱き込み共に涙を流した。


「父さん、母さん。ほんとはこの村に居てもいいのかなって思ったこともあったんだ。だけどね、父さんや母さん、じいちゃん、アカシアやエルのおかげでこれまで頑張って来れたんだ。じいちゃんありがと、話しを聞かせてくれて。あの人は勇敢に戦士として最後まで戦ったんだね。俺が想像するよりもっと酷い扱いを受けていたかもしれないんだ。けど負けずに戦った。そしてみんなのために勝ったんだ。だから俺もこの力をみんなのために使う。この力と向き合うよ!」



  グレンの告白に、センとレイは優しく抱きしめる。


「グレン、俺が鍛錬してやる。お前を1人前にしてやる!そして誰もが憧れる戦士になれ!」


「グレン、私たちはいつでも貴方の見方だから。これからもグレンが信じる道を進んで行ってな」


  リュウゲンは目尻をサッと拭い、グレンを抱きしめる家族の姿を見ながら、家族としてのあり方や、グレンの心の強さを見てこれからの進む行く末に幸福があることを祈るのであった。

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