第2話 1日の始まり
外では吐く息が白く色づくように村の家々の煙突から白い煙が空に向かってもくもくと立ち上がる様子が見える。進む道には、背負い篭を持った人々が行き交い今日の一日の始まりを物語っている。
「よ、グレン。おはようさん。これから鍛錬かあ。頑張れよお」
口を手で多いふーとかじかむ手を温めながら、会う人々に手を振り挨拶をして進んだ。
広場が見えてくると、そこには鍛錬を行う5歳から15歳の子供から若者達が全員集まっていた。
「グレンにい、遅いよ!」「また寝坊か!シャキッとしろ〜」「ほんとに遅刻の常習犯ねっ」
グレンよりも薄くした銀色の髪で優しい顔立ちな150cm程の弟であるアカシアを筆頭に次々とグレンを笑いながら非難する声が聞こえてくる。
ヒラヒラと手で返事をしながら、最近エルが変な言葉を使い始めたのはやっぱりアリスが犯人だなとひとり思うのであった。
「はあ〜こんな寒い日に鍛錬なんて」
そんなグレンの呟きを無視して鍛錬担当のレグは話し出す。
「よしっ。グレンも来たことだ。今日も鍛錬するぞ〜! 今日もいつもの様に山の頂上まで走り込みして素振りだ!
その後は、宝具を出す訓練をして木刀で試合をするぞお。あーあとグレン、お前はその後長老のとこに行け。何か話があるようだわ」
グレン以外が、首を傾げている。
「レグさん。グレンだけなんで長老のとこに?」
グレンより3個下で金髪の髪を背中まで伸ばし、鼻筋が通った綺麗な顔立ちのアリスが当然の質問する。
「えーとだな……」
レグが話すのを遮りグレンが声を出した。
「ふっアリスは俺と鍛錬したいのかい?」
笑顔のグレンの顔を見てアリスは耳を赤くしてしかめっ面をする。
「別にグレンと鍛錬をしたい訳じゃないわ! 日々の鍛錬は村の掟なのに変だなと思っただけよ!」
そんなムキにならなくても言うグレンだが、あっけらかんと話し始める。
「ってのは冗談でこの前13歳になったけどまだ自分の宝具が出現しないからさ、これからどうすればいいかって言うのを長老が話してくれるんだと思うよ」
「ま、そーゆことだ。13歳から3年待ったがグレンには宝具が出現しなかったからな。今までの村の中で初めてのことだから長老が今後のことを話す。お前たちはなんも心配すんな。よし走り込み始めるぞ」
ザワザワとし出すのをレグが沈め、鍛錬の開始となった。
そんな中アカシアやアリスはチラッとグレンを心配そうに見るが、グレンは大丈夫大丈夫と言って見つめ返す。
「んー何話すんだろー? グレン兄さん!後で教えてね〜」
「俺も俺も!」
アカシアより少し背が高く黒髪をしたクールな顔立ちのミナトと、真っ赤な赤髪をしたやんちゃそうなコウガもグレンに近づく。
「そんな心配要らないよ? さっアカシア、ミナト、コウガ、アリス誰が先に頂上に行くか今日も競走な!」
村の西門から、グレンが走り出すと北の山に向かって一斉に他の子供たちも走り出した。
グレンが住む村は500人ほどの小さい村であり、アスティア大陸北西の未開墾の森の中に位置する。山々が連なり山と山の隙間に村があるとは誰も想像出来ないほどの場所である。
男女は半々くらいであり、金髪、黒髪、赤髪をした者が多く、銀髪は少数見受けられる。 男性の体格は全体的に大きく、身長が2mをゆうに超える者もいる。
そんな村の北には歩くのにも適さない山があり、そこを縦横無尽に先程の子供たちが走っている。
この山の頂上に行く正規のルートはなく、子供たちは好きずきに道を開拓して進む。臨機応変に移動しなければ中腹からは崖に落ちてしまうような山である。
「うわっ、あぶ、な……」
はぁはぁと肩で息するアリスが山肌から滑りそうになる所を横目に、木から木、岩から岩と跳ねるように移動しているグレンがいた。
「アリス、そのまま進んでも行けるけど、右手の方に進んだ方がいいぞ。頂上で先に待ってるねー」
「ちょ、待ちなさいよ! アカシアまた今日も負けちゃうわ!行くわよ!」
アリスの後ろにいたアカシアは頷き、跳躍しながら頂上に向かって進むのであった。
「ふーアリスは危なかっしいな、ほんと。よーしそろそろレグさんに追いつくとするかあ」
そんな事を呟くと同時にバチバチッとグレンの足下から音が鳴り始めると先程よりも早いスピードでグレンは山を駆け上がって行った。
アリスが頂上に着いた時には、レグとグレン、そしてグレンよりも年上の子供たち3人が到着しており今回もアリスは一番ではなかったようだ。その後に続いてアカシアが到着し、後を追うように子供達が到着した。
「あぶなかったなあ、今回はグレンに抜かされるところだったぞ」
レグはグレンの頭に手を回し、グリグリと笑いながら絡む。
そんなレグの言葉にアカシアやアリス、子供達はびっくりした顔で2人を見た。
「ほんと?レグさん!グレン兄はやっぱりすごいや!ねアリス!」
「そ、そんなわけないじゃない!レグさんの冗談に決まってるわ!」
子供たちがびっくりするのは当然で、レグは今年で30歳になり村の中で、若手でありながら有数の宝具使いだったからだ。
身体はスラッとしているが、強靭な肉体でありいくつもの魔物を1人で狩れるほどの腕前であったからだ。
「くっそ!11歳に負け越しなんて……」「宝具もないのにあいつどーなってんだよ、!」「はあ〜あ。さすがは長の子かしらね」
グレンより2個年上のもの達も拳を握りしめ悔しそうな者と、いつも通りねと半ば諦めが入りながら話していた。
「やっぱりすげーーな! グレン兄は!な、ミナト!」
「あはは、流石っ」
コウガもミナトともキラキラとした目でグレンを見ていた。
「お前、なんか使ったな?」
耳元でレグは話しかけるが、グレンは手を挙げ首をすくめてなん事と?と言う表情で返答するのだった。
そんな顔にレグは笑った。
「よし、素振りを始めるぞー」
レグの開始の言葉と共に太陽が顔を出し始めた。
北山の頂上は、平坦になっており山の端から下を見れば絶壁である。周りを見渡せば見晴らしの良い眺めが見える。見える先には山しかないが、南下の方角を見ると村の全体を一望できた。
村は円になっており、中心には1つの大きな木とそこから波紋のように広がる平屋の民家がある。グレンとアカシアの家は一際大きく中心の木の傍にあるのが見える。
北山の麓には畑が広がっており、東南には煙突から一際大きい白い煙を出す一角がある。
南には南の山なら流れる小川があり、西に大きな門がある。門から村の外に続く道を目で追っていくと目で見えない先の方まで道が続いているのがわかる。
「ふっ、ふっ」
子供たちや若者達がせっせと木刀を振る。空気が薄いのか息も絶え絶えで汗を浸らせながら懸命に鍛錬を積んでいる。
太陽が中天に差し掛かる手前で、レグの声掛けがあった。
「よーし、そこまで。次は自分の宝具を化現させるぞ〜。そこ!休むな。疲れた中での鍛錬だからな!」
そう言ってレグは子供たちに胡座をかかせ、集中させる。
「お前たちは何度もやってきてると思うが、自分の姿が宝具となる。言わば人生の相棒だ。呼吸と同じように出せないと1人前とは言われないからな」
一人一人集中し、静寂の中で次々と宝具が化現していく。
中でも4人の子供から圧倒的な存在感を出す宝具があった。
アカシアには黒い刀身をした片手剣。アリスは首切り包丁の形をした大剣。ミナトは青みがかった細身の剣。コウガは赤い刀身の直剣を化現させていた。
他の子供たちも弓、曲剣、矛、中には鍛冶で使う片手のハンマーや釣竿など武器にはなり得ないものも化現させている子供もいた。
そんな宝具を化現させる子供たちをじっとグレンが見ており、その傍にレグは佇む。
「グレン。どうだ? またお前もやってみるか?」
「レグさん、俺は気にしてないよ?何年間もやってみたんだ。それでも出せなかった、それが答えさ。」
「はあーそーだな。いやすまんな。」
「大丈夫。ありがとうレグさん。今日もみんなの宝具を見れたし俺は長老のとこに行くね!」
「おう。アイツらのことは任そとけ! しっかり家まで返すからよ!」
グレンはレグに挨拶をして、山を下り村に戻るのだった。
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