第6話

「…先輩起きてくださいっ!」


どのくらい眠っていただろうか。

もう外は暗くなっており、すこし肌寒さを感じた。

足に違和感を感じ、目をやる。

ロープのようなものでベッドの足に繋がれている。


「これなんで…泉どうした?」


そう聞くと


「先輩はダメな人です。私と付き合ってるのに少し可愛い子に迫られるだけで浮気しちゃうんですよね?」


そう言っていつものように僕に抱きついた。


「だから…私以外見ないようにしようかなって」


そう言って笑った。


「泉…そんなこと言う子じゃなかっただろ?」


しかも縛っているのは足だけこんなものすぐに抜け出せると思った思っていたが僕の知らない結び方で解こうとすればするほど結び目が固くなった。


「先輩は不器用だから解けないと思いますよ?ぶかつで部活でずっと見てきたんですから分かります。ゴールネットとか上手く結べなくて苦戦してるとこよくみ出たので。手が自由なのは私のこと抱きしめられなくなっちゃいますから。」


そう言って抱きしめる力を強める。


「好きです先輩抱きしめてください。私、だけ見ていてください。先輩がいてくれれば私何も怖くないです。」


「奏は僕が別れないと泉になにかするって…」


「その泉って呼ぶのやめてください。幼馴染さんは奏って名前で呼んでるのに、カノジョの私は呼んでくれないんですか?」


「あぁ…玲香ごめん。」


「それにさっき言ったじゃないですか。先輩がいれば何も怖くないって」


「玲香…」


そんな姿が愛おしくなり泉を抱きしめる。頬を緩ませ、嬉しそうに抱き締め返してくる。泉が体を起こし、僕に顔を近づける。


その時の事だった。


インターホンがなる。


「宅配便とかかな。行ってきた方がいいんじゃない?」


「そうですね。もう逃げたりしないと思うのでこれ解いて行きますね。」


僕が全く解くことも出来なかった。ロープをサラッとほどき、泉が部屋を出ていく。


これからどうしようか考えていると。


「やめてください!」


そんな泉の声が聞こえる。どうしたものかと、部屋を出ていこうとすると、勢いよくドアが開く。


「なんでここにいるのかな悠夜。」


「なんでここが…」


そこに立っていたのは奏であった。


「お話しよっか悠夜、泉ちゃん?」


3人で泉の部屋のテーブルにつく。


「霧島先輩なんの用事でしょうか。」


「分かってるよね?悠夜のことなんだけど?」


「別に何も関係ないじゃないですか。私のカレシですけど、あなたはただの幼馴染じゃないですか。」


2人がそう話しているのを見て胃がキリキリする。


「単刀直入に言うわ。悠夜を譲りなさい?」


「嫌です。」


奏が高圧的にそういうが泉はそれを即答で拒否する。


「そんなこと言ってもね?私と悠夜は昨日の夜に愛し合ったの。お互いが好きで好きでしょうがないから悠夜も応えてくれたんだよ?」


「そんなことがあったんですか?本当ですか先輩?」


全力で首を横に振る。


「行為をしたのは認めるけどそれはお前が泉に危害を加えると思ったから。」


「先輩…」


「でも好きって言ってくれたよね?」


「そうしないと何されるか分からなくて怖かったんだ。」


「先輩、安心してください。私は大丈夫です。」


「ふーん。そんな感じになったんだ。」


「ただ俺も追い詰めてしまったというか、非もあると思うから。お互い険悪にならないようになって欲しいなとも思うんだ。」


「先輩…この女を庇うんですか?」


「違うってただ俺の幼馴染ってことで、泉とも仲良くなって欲しかったんだ。」


「悠夜と付き合ってるのならそれは無理だけどね。」


そう言うと奏は立ち上がる。そして、僕に近づくといきなりキスをする。昨日の夜のような深いものだった。


「霧島先輩何してるんですか!?」


泉が僕を引き離すと奏はそれを見て不気味に笑った。


「今日はこのくらいて帰ってあげる。けどね悠夜、私はあなたをずっと愛してる。離してあげるつもりなんてないから。泉ちゃんと付き合ってるとしても諦めないから。」


そう言うと部屋を出ていき、帰って行った。


「私だけの先輩なのに。」


悲しそうに泉が呟く。


そして、部屋を出て家の鍵を締めに行った。


部屋に戻ると、なにか決心した顔でこういった。





「先輩、昨日霧島先輩にされたコト、私で上書きしてくれませんか?初めてが奪われたのは癪ですけど、最後にしたのが私であって欲しいんです。」

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