第5話
早朝目が覚めて体を起こす。
手錠は外されており手足が自由に動く。
昨日の惨状を物語るかのようにベットは荒れており、そこには奏が寝ていた。
現実逃避をするように、上着を羽織り外に出た。
近くのコンビニまで歩きながら携帯を開くと通知がひとつ来ていた。
『明日は楽しみですね!』
泉からだった。
そうだった。昨日は土曜日出会ったから今日は日曜日である。
昨日あったことを正直に話してしまったらどうなってしまうか。
話さなくても奏伝いに伝わってしまうことは見えている。
僕は集合時間近くまでコンビニで時間を潰し、約束していた場所へ向かった。
集合場所にいくと、泉が既に待っていた。
「先輩、おはようございます!」
「あぁ…おはよう」
「返信がなかったんですけど、昨日はなんかあったんですか?」
「昨日は映画見てたら寝落ちしちゃってさごめんな。」
適当な言い訳が出てきてしまう自分に自己嫌悪をしながら答える。
「今日は楽しみですね!」
そう言っていつも通り泉が抱きついてくる。
それを受け止めてこちらも抱きしめ返す。どう話を切り出そうか考えていた時。
「先輩…」
顔をあげて何か思い詰めたかのように続ける。
「なんで…先輩以外の匂いがするんですか?」
泉は付き合ってから隙があればこちらに抱きついてきていた。昨日のコトがあれば奏の匂いが移ってきているはずである。
「この匂い……霧島先輩…?なんで先輩から霧島先輩の匂いが…?」
考えを巡らせ何かを思いついた泉はそれを話す。
「今日のデートプランは変更です。先輩、今から私の家に行きましょう。大丈夫です。今日はお母さんはいません。行きますよ。すぐ近くです。」
捲し立てるようにそう言うと僕の手を引いて歩き出す。
泉の自宅につき、部屋へと案内される。
「ここに座ってください」
小さなテーブルがあり、座布団が置かれる。そこに座ると泉はテーブルの反対側に座る。
「なんで…霧島先輩の匂いが先輩からするんですか…?」
それを聞いて僕は早々に土下座の姿勢になる。
「ほんとうに申し訳ございませんでした!玲香とそういう関係になってしまいました!」
それを聞いて呆れたような驚いたような顔をうかべる。
「…というと先輩はカノジョが出来てその次の日に浮気しちゃったと…」
「いや…本当にすまない」
「霧島先輩から迫られたんですか…?」
「そうだけど…最後に受け入れた僕が悪い。」
「そうですか…」
静かな時間が過ぎていく。部屋に響くのは時計の秒針が動く音のみで、何も話し始めるということも無く僕のことをじっと見つめている。
5分くらいたった頃だろうか。泉が口を開く。
「先輩は…まだ…私のことは好きですか…?」
「もちろんだ。」
即答した。玲香があのような手段に訴えなければ今日は楽しいデートになっていたことであろう。
「そっか…そっか…」
僕の回答を聞くと、泉は立ち上がった。
「お茶を入れてきます。先輩はここにいてください。」
泉が部屋を出ていく。
泉に正直に告げたことにより少しだけ胸が軽くなるが、思っていたような展開にはならず、拍子抜けする。彼女はどうするつもりなのだろうか。
「お待たせしました。先輩。」
湯呑みを2つ持ってきた泉が部屋に入る。
「ゆっくり話しましょうか。だからまず喉を潤してください。」
そう勧められ、僕はお茶を口にする。
泉が少しだけニヤついた気がするが、自分の淹れたものを口にしてもらって嬉しいとかそんなことだろうか。
それからしばらく、たわいの無い話をした。学校の話、部活の話。
30分だった頃、突然の眠気に襲われる。
「悪い…泉…今日はほとんど寝てなくてな……ごめ…」
倒れるように僕は意識を手放す。
話し中なのに申し訳ないと思いながら。
「いいんですよ先輩。私がそうなって欲しくてしたことですから…。」
泉はさっきのお茶に忍ばせた睡眠薬で眠って貰った悠夜を自分のベットへと運ぶ。
「先輩は私だけのものなんです。霧島先輩なんかになんてあげません。」
「大好きですよ。先輩。」
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