マンネリ防止の相談をしたらカニバリズムを勧められたので

ユラカモマ

マンネリ防止の相談をしたらカニバリズムを勧められたので

 その恐ろしい出来事は原が彼女である茂木の部屋でおうちデートを楽しんでいたとある昼下がりに起こった。

「今日のデザートは私の心臓だよ!」

「ひぎょぇっ?!」

 笑顔の彼女が運んできた皿の上に拳大の今取り出してきましたと言わんばかりに生々しい心臓が置かれていたのだ。

 

 半狂乱で電話をかけると近場に住む友人二人がとんできてくれた。一人は保護者、一人は容疑者の立ち位置でお馴染みの二人だ。保護者こと海原は現行犯の茂木と既に察して茂木の横に正座で座っている高橋の前でお説教モードである。なお二人の間には先ほど原が心臓かと思った心臓型リアルチョコムースが置かれている。

「何やってるの??」

「ごめん、原くんを楽しませたかっただけなんだけど…最近おうちデートが増えたからマンネリ防止に何かないか高橋くんに相談したらカニバリズムはどうかと言われて」

 海原に見下ろされた茂木はしょんもりしながら隣の容疑者を指差す。それに海原と原はまたかと顔を歪め、当人の高橋はあーあとでも言いたげに人差し指で頬を掻いた。

「ちょっとこいつに相談するのは止めときなさいって言ってるわよねぇ? あんたたちがそろうとバイオレンスなことにしかならないんだから。そもそもあんたカニバリズムが何か分かってる?」

「もちろん! 高橋くんに話を聞いて調べてみたよ。本来なら自分の肉体を使った料理を出すんでしょ? でも意図的に体を欠損させるというのは抵抗があったから、私の心臓の形のお菓子を作ることにしたの。せめて私の血を使ってみようかって提案したんだけど高橋くんに味がおかしくなるって止められた~。でも結構いいできでしょ? 私の心臓型チョコレートムース」

 不穏発言に海原のテンションは地の底だが茂木は余程会心の出来だったのか話している内に声のトーンが上がっていく。もはや原をおびえさせてお説教されていることも忘れていそうなお花畑笑顔なのですんっと死んだ顔で引き戻す。

「そうね、今にも血がしたたってきそうないい出来ね。でも食指は動かないわ。グロいもの」

「味は普通のチョコムースだぞ? 見た目生肉に近くなるよ色々細工してはいるが味は俺が保証する」

「高橋くんのお菓子作りの腕はさすがだもんね~。味見したけど甘くてすっごくおいしい!」

「趣味の範囲だよ。それに型を作ったのは茂木だろう? 今にも拍動しそうなぐらいリアルだよ」

 わいわいと称賛し合う茂木と高橋。これだからこいつらは!!

「…つまりこの悪趣味なチョコレートはあんたたち2人の合作ってわけね」

 ふぅぅと肺の中の空気を吐ききりながら問えばにっこりと笑顔で答える。そろそろ締めの時間だ。


「そうだよ!」


「まぁ…」


「何やってんのよ! こんなリアルなもの出されたらそりゃ悲鳴の一つもあげるわよ!」

 海原は一瞬で息を吸って一息で言い切った。ちなみに被害者である原はまだ海原の後ろで震えている。

「悪い悪い軽い悪戯のつもりだったんだが…」

「ミ"」

 そして今高橋による追撃でさらにバイブレーションがパワーアップした。こいつはこいつで情けないが今回は完全な被害者なので放っておく。

「高橋、悪戯にしてはやり過ぎよ。茂木も気持ちはともかく方法がまずいわ。責任持って2人で残さず食べきりなさい」

「あぁー、原くんに食べて欲しかったけど仕方ないかぁ。高橋くん2人で食べよー」

 茂木は心底残念! といった表情でうなだれてから3秒で復活し高橋の分のスプーンを取ろうと立ち上がろうとした。しかしその服の裾を這い寄っていった原がつかむ。

「は? 待ってください、俺が食うっすよ。見た目はどうでも茂木さんが俺の為に作ってくれたんでしょ? 始めは驚いたっすけどもう慣れてきたんでいける…っすよ」

「ちょっと原あんた震えてるわよ。無理はしない方が…」

 先ほどまでの怯えようもあり海原は茂木にストップをかけようか逡巡するが高橋はにやっと笑って原の肩に伸びようとしていた海原の手を止める。

「好きにさせてやったらいいんじゃないか。せっかくの彼女の手作りだし、俺も感想が聞きたいしな」

 こいつただ自分の作品を他に味合わせたいだけでは??

「えー! 食べてくれるの?」

 喜んだ茂木はなんの躊躇いもなく自分の心臓を模したムースにスプーンを差しその一口分をスプーンに乗せた。当たり前だがムースから血は出ていない。えぐり取られた断面からはきめ細かく生々しい赤いムースがのぞくだけだ。しかしその光景を見ていた製作者以外の面子は一瞬惨劇を予想し身構えた。それぐらいリアルだった。茂木はそんな周りの心情は気にもせず心臓の一部をすくいとったスプーンを原くんの口元に差し出す。

「はいどうぞ」

「ん"っ…モグモグ…うま」

 原は一瞬ひよりかけるも目を瞑って一気にいった。そのまま目を閉じっぱなしで次を催促するように口を開ける原に海原は"割れ鍋に綴じ蓋"ということわざを思い出す。なんでこんなびびりと天然爆弾が付き合っているのかと思うが本人たちがいいならいいだろう。うん、いいってことにしとこう。これ以上巻き込まれたくはない。

「海原俺モデルの試作品がうちにあるんだがこの後うち来るか?」

「なんでアレ見た後で行くと思ったの??」

 私は絶対あの二人みたいにはならない。フラグじゃなく、絶対に!

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マンネリ防止の相談をしたらカニバリズムを勧められたので ユラカモマ @yura8812

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