素直なヒーローとツンデレ異世界人【エピソード3】

双瀬桔梗

残念系イケメン博士は青年ヒーローと友達になりたい

 異世界人『ツン・デーレいちぞく』と、彼らに対抗すべく作られた組織『デレデレ部隊スナオズ』の戦いは、コメディしょくが強い。それもその筈、ツン・デーレの真の目的は友達作りで、侵略行為はただの照れ隠しなのだから……。

 本気ではない攻撃に、無害でポップな見た目の怪人……それに加え、ツン・デーレの戦闘員達はバイトとして雇われた、この世界の人間達である。

 ただでさえ、ツッコミどころしかない戦いを、よりおかしな状況にしてしまう男が一人。

「ふはははは! スナオホワイトォ! いや、ゆきしろはやァ! 今日こそ私と友達になってもらうぞぉ」

 怪人や、幹部達の武器などを作っている、リベアティ博士。彼は容姿端麗な見た目に、188cm高身長というスペックの持ち主で、エレガントなスーツを着こなし身なりも完璧なのだが……ハイなテンションと、ウザめの言動が目立ちすぎて所謂、“残念なイケメン”に分類されるタイプの人間だ。彼が戦闘に参加すると、ますますコメディしょくが強くなり、時には収拾がつかなくなる事も……。

 そんなリベアティに気に入られてしまった、スナオホワイトこと雪城隼大は、今日もげんなりしている。

「お願いだから帰ってください」

「帰れ、だと……?」

 隼大の一言に、リベアティはワナワナと震えている。彼は紫色の髪をかきあげ、黒と銀色のオッドアイをカッと見開く。

「この私が、君と友達になってやると言っているのに……君と言う奴はいつもいつも何故断るんだァ」

 リベアティは白衣をはためかせ、隼大の方へ走り出す。隼大は慌てて、白い石のついたブレスレットを胸にかざし、「スナオチェンジ!」と言った。その刹那、彼は白い光に包まれ、あっという間に純白のパワードスーツ姿に……スナオホワイトへと変身が完了する。

「オレはアンタのことが苦手なんだよ!」

「君はいつからツン・デーレいちぞくになったんだァ!?」

「誰がツンデレだ!」

 普段の隼大は物腰柔らかな口調なのだが、リベアティと話している時だけは口が悪くなる。リベアティはそれが嬉しくて、ますます隼大のことをからかいたくなるのだ。

 隼大は近づいてくるリベアティに銃剣を向けて、引き金を引いた。

 自身の方へ飛んでくる弾丸を、リベアティは鞭で打ち落とす。

「雪城隼大ァ! 君の力はそんなものかァ」

「ほんっとイチイチうるさいな!」

「隼大クン、大丈夫? 僕があのニィサンの相手、引き受けようか?」

 スナオブルーに変身した、あお こうろうは戦闘員数名をさらりとかわし、隼大の隣に立つ。

「スナオブルー! 君はお呼びではなぁい!」

「相変わらず、えらい隼大クンに執着してるなぁ……」

 プンスカ怒るリベアティに、幸路郎は冷ややかな視線を向ける。

「多分、大丈夫です……あの人はオレが何とかします」

隼大はーくんはいつも大変だね」

 肩を落とす隼大を見て、幸路郎は「無理しぃなや」と肩をポンポンと叩いた。そんな二人の近くに、いつの間にか来ていたスナオピンクこと しえりが、呑気に言葉を発する。

「リベアティ博士は隼大兄さんのことが大好きなんスよ、多分……」

 隼大を心配して駆け寄ってきたスナオイエローことかわ ミナは、謎のフォローを入れる。

「リベアティはちょっと変わってるけど、悪い奴ではなさそうだし、ダチになってやればいいじゃねぇか」

 怪我をさせない程度に戦闘員を蹴散らし、四人の元にやってきたスナオレッドことあかみね ごうはかなり無責任なことを言う。

「その通りだァ! スナオレッド、なかなか良いことを言うじゃないか」

「勘弁してくれよ……」

 豪の言葉を聞いたリベアティは、何度も首を大きく縦に振る。しかし、隼大は本気で嫌がっているようだ。

「隼大はリベアティの何がそんなにイヤなんだ?」

「え、それは……常にテンション高いし、無駄にデカいし、五月蝿いし、そもそもどんな人なのかよく分からないし……」

 豪の思いがけない質問に、隼大は戸惑いながら答える。彼の回答を聞いた豪は、「なるほどな」と言いながら腕を組む。

「よく分からないなら一度、二人っきりで話してみれば良いじゃねぇか」

「へ……」

 隼大は年下リーダーの思いがけない言葉に、絶句する。

「豪クン……それは反対やわ。隼大クンにもしものことがあったら、どないすんの?」

「ジブンも反対ッス! 変態さんリベアティ博士と隼大兄さんを二人っきりにはできないッスよ!」

 過保護な兄と妹のような幸路郎とミナの言葉に、豪としえりは首を傾げる。

「隼大は二十五歳の男だぞ? 生身でも強いし、なんかされたとしても自分の身は自分で守れるだろ」

幸路郎こーくんとミーちゃんは過保護すぎるよ~」

 やいやい言い合っている四人と、慌ててそれを止める隼大。一人蚊帳の外であるリベアティは、ムッとした顔で鞭を振るう。縄部分が隼大の持つ銃剣に巻き付くと同時に、リベアティは思いっきり鞭を引っ張る。

「うわっ!? ちょ……はぁ!?」

 銃剣ごと引き寄せられ、リベアティの腕の中に閉じ込められてしまった隼大は、ジタバタと暴れる。

「この私を放って、仲間達と談笑するとは何事だ! 悪い子にはお仕置が必要だなァ! やれ! 手繋ぎ怪人!」

 あの様子を見て何故かヤキモチを焼いていたらしいリベアティは、ずっと傍で控えさせていた怪人に指示を出す。すると、手繋ぎ怪人は紫の光線を、リベアティと隼大に浴びせた。二人は眩しい光に包み込まれ、隼大は思わず目をつぶる。

 怪人の光線攻撃(?)が終わり、隼大が恐る恐る目を開くと変身が解けていた。そして、リベアティと手を繋いでいる状況に、隼大の目が点になる。

「ふははは! これで君はしばらくの間、私と絶対に離れられないぞ!」

「アンタ……なにしてくれてんだよ!」

 激怒する隼大のことなどお構いなしに、リベアティは高笑いしている。

「スナオズの諸君! 雪城隼大は預かった! 数時間後には返すので、大人しく基地で待ってるんだなァ! サラバだ!」

 リベアティは一方的に言いたい事だけ言うと、隼大を連れて城へとワープした。



 ツン・デーレいちぞくの城『エベ・ツン・ブルク』内の研究室。

「たくっ……まーた変な怪人作りやがって……」

 シックなソファーに座るよう促され、隼大は悪態をつきながらも、出来る限りリベアティから離れて腰掛ける。

 リベアティは足を組み、ネクタイを緩めながら愉快そうにぐったりしている隼大を眺めている。

「雪城隼大ァ漸く観念したようだな?」

「はいはい、ソウデスヨー」

 隼大はため息混じりに、適当に言葉を返す。それでもリベアティは気にすることなく、寧ろ楽しそうに隼大の手をぎゅっと握る。

「アンタさぁ……いい歳した男二人で手ェ繋いで何が楽しいの?」

「楽しくはないが、この世界の友人同士は手を繋ぐものではないのか?」

「それは小さな子ども限定の話だと思う……」

 気を張ることすら面倒になった隼大は一応、敵地であるにも関わらず、完全にダラっとした状態でソファーにもたれかかった。

 一方リベアティは首を傾げながら、「ふむ……」と何やらまた、変なことを考えているような表情になる。

「そんなに恥ずかしいなら、これはどうだ?」

「いや、恥ずかしいとかではなく……」

 言葉の途中から、リベアティの手が徐々に小さくなっていることに気がつき、隼大は隣を見た。

「え、え?! なにその姿……狼?」

 リベアティの姿が紫色の、狼のような動物に変化したことで、隼大は驚く。繋がれていた手が離れて、逃げようと思えば逃げれる状況であるのに、隼大はじっと狼リベアティを見ている。

「驚いたか? 私はこのような姿にもなれるのだぞ?」

 いつもとは違う普通のテンションで話す狼リベアティは、ひょいっと隼大の膝に頭を乗せる。

「勘違いするな。これは甘えているのではなく、くつろぐために、頭を乗せただけだ。別に撫でてほしいとか、全く思っていないぞ?」

 そう言いながらも、狼リベアティは隼大の顔をチラチラと見ている。

 最初はリベアティのいろんな変化に困惑する隼大だったが、目と目が合った瞬間、柔らかな表情で微笑んだ。

「アンタって狼の時だけツンデレなんだな」

 隼大はそう言いながら、狼リベアティの頭をそっと撫でた。その手が心地よくて、狼リベアティは尻尾を振っている。

「私は今とても機嫌がいい。決して君が頭を撫でてくれたからではないが……ついでに昔話でも聞かせてあげよう」

 そう前置きして、狼リベアティは隼大の返事も聞かずに、自分が過去に体験した出来事を話し始めた。

 元々はとある大国の第三王子だったが、窮屈な生活に耐え切れなくなり、自由を求めて逃亡したこと。行き倒れてるところをエベレスト皇帝に拾ってもらい、命を救われたこと。何かの拍子に、ツン・デーレいちぞくが住む世界『アトリ・ビュート』に、転移してしまった異世界人と友達になったが、相手の寿命が先に尽きて死別したこと。

 その友人が、隼大に似ていたことも全て話した。

「……それで、アンタはずっとオレと友達になりたいって、言ってたのか……」

「ふんっ……別にどちらでもいいがな」

「ふーん……どっちでもいいのか」

「……まぁ君がどうしてもというなら、友達になってやらんこともないがな」

「ふっ……素直じゃねーな」

 隼大はいつもの調子でふわふわ笑いながら、楽しそうに狼リベアティの頭を優しく撫でている。

 狼リベアティはチラリと隼大の顔を見て思った。

 あぁ、琥珀色の瞳も、笑った顔も、怒った顔も……やはりによく似ている、と。


「まぁでも、アンタの話を聞いてたら……友達になるのも悪くないかもとは思ったよ」

「それは、本当か?」

「うーん、今後のアンタの態度次第、かな? とりあえず今は保留ってことで」

「ふんっ……まぁ今回はそれで許してやらんこともない」

「ははっ……なんだそれ」

 軽口を叩き合いながらも、隼大にはいつもの嫌悪感はなく、狼リベアティは言葉とは裏腹に尻尾をブンブンさせている。



 そんなこんなで、心の距離が少し近づいた隼大とリベアティ。彼らが友情を育むのは、もう少し先のお話。


【リベアティ博士 視点 完】

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