第16話 1ページ目

 一日中、討伐者で溢れかえっているギルド。そこにルイ、ミカ、ライトの三人の姿があった。三人とも軽装であり、要所の関節や胸などを守るパーツはあるが、その他の部分は動きやすさを重視している。

 三人の防具はギルドから支給されたものであり、その性能は折り紙付きだ。だが、ミカとライトはあまり気に行っていない様子。


「なんかさー。だっさくね?これ」

「ボクもなんっかな~。もっと派手なのがいいよ!」


 朝からずっと文句を垂れている。ルイは防具の見た目など気にならないが、二人はどうしてもだめらしい。


「文句ばっかり言ってないで、早く依頼受けに行きますよ」

「わーってるよ! ったく、お前はいいよなーなんも感じねーんだもんなー」

「別に感じないわけではないですけど……」


 三人は依頼ボードに向かう。人が多く、なかなか真っ直ぐは歩けない。依頼ボードが大きくて目的地がわかりやすいのはルイにとってありがたいことだった。ただ、父娘二人を御せるかどうかは話が別だ。


「かんちょ~!!」

「んっ……!」


 突然、尻に痛みが走る。すぐに痛みは引いたが、これは何事か。ルイが後ろを確認すると、満面の笑みでしゃがんでいるミカがいた。


「なんですか……」

「にしし。大声出さねえかと思ってさ」

「出しませんよ……」

「ちぇっ、つっまんねーの!」


 僕はいじめられているのだろうか。それとも嫌われているのか。ルイは先行きに不安を感じながら受付の男の元へ向かった。

 受付の男はきっと今のやり取りを見ていたであろう。しかし、特に反応するわけでもなく笑顔を張り付けている。


「どうぞ!」

「あ、はい。Cランクの依頼を受けに来たんですけど」

「初めての方々ですね!討伐者カードを見せていただけますか?」


 討伐者カード。三人でギルド長の元を訪れた時にもらったものだ。討伐者の身分を保証し、証明するもので簡単な情報が書かれている。名前、いつ登録したか、ランク。それだけのカードだが、これがないと依頼を受けることができない。


「ほいっ!」

「これか?」

「お願いします」


 男は三人のカードを確認して、すぐに返却した。確認するときまで笑顔は張り付いたままである。


「確認いたしました。それでは、こちらが現在だされているCランクの依頼でございます」


 依頼ボードとは別に、依頼のリストを確認させてもらえるらしい。男が取り出したリストを三人が覗き込む。リストには四つの項目があり、それぞれの依頼が項目ごとに並んでいた。項目には、「討伐」「捕獲」「護衛」「その他」がある。


「どれにしますか?」


 Cランクの依頼は数えきれないほどリストに並んでいた。軽く数十件、もししかしたら百件を超えているかもしれない。それだけ魔物は脅威であり、人間の生活に入り込んでいるということだ。

 ルイの家族のように自衛の術を持ち合わせている人なら問題はないが、そうではない人々からすると自分の身を守るのも精いっぱいである。それでも生活していかなければならないし、生計を立てなければならない。


「そりゃお前、討伐に決まってんだろ」

「おう!そうだそうだ!」


 二人が当たり前だというような顔をして言う。


「どうして決まっているんですか?」

「この項目の中で俺たち向きなのはどう考えても討伐だろ。俺とミカの異能は捕獲や護衛に向かねえよ、どちらかというと範囲攻撃型だしな。それにお前の異能はまだ未知数すぎる。やりすぎちまうかもしれねえし、何もできねえかもしれねえ。そんな中、捕獲だの護衛だの気を遣うもんが多いとやりにきぃだろ」

「おう!そうだそうだ!」


 どうやらライトの中にはしっかりと考えがあったようだ。ライトのオンとオフを切り替えるスイッチがどこにあるのか分からない。これを見つけるのもルイの課題かもしれない。とにかく、ライトの意見はもっともだし、ルイとしてはライトの存在はありがたい限りだった。


「なるほど。それでは討伐にしましょう……何の討伐にしましょうか」

「そりゃ!いっちばん強いやつ!」

「おう、その通りだ」


 またも意見のそろう二人。


「それはどうして?」

「面白そうだから!」

「ミカがかわいいから」


 やはりスイッチはどこで切り替わるか分からない。


「……それじゃあ、それでお願いします……」


 ライトは二人の意見は曲げられないと悟り、受付に言った。受付の張り付いた笑顔が少し引き攣っているようにも見える。


「分かりました!Cランクで受けられる討伐依頼の中で難度が高いのはこちらですね」


 リストとは別の一枚の紙が出される。

 

依頼:ウェアウルフの討伐

出現場所:深淵の森

主な出現時間:日中

       *夜は巣で眠りについている*

討伐報酬:50S(シルバー)

依頼主:ラヌイ・ホゥ


 ウェアウルフ。二足歩行の狼だ。暴力性が高く、少人数で行動している人間を見つけると襲い掛かり、食べてしまうらしい。が、多数には襲い掛からず身を潜めるという狡猾さも持ち合わせている。確かに高難易度だ。


「ちっ……5Sぽっちかよ。もっとがっぽりいけるもんだと思ってたんだがな」

「5Sあったら家買える?」

「あー……そうだな、無理だな!」

「えー、あといくらあったら買える?」

「あと19G(ゴールド)と95Sくらいあったら買えますよ」

「全然じゃん!」


 どうして家なんだろうとルイは疑問に思ったが、聞かなかった。特に必要な情報でもないし、今聞くようなことではない。後ろに人も並び始めたし、とりあえずこの依頼を受けて早く出発したい。


「それではこちらの依頼をお任せいたします。依頼達成までの期限は受注してから一週間なのでお気を付けください。討伐されましたらそれを証明できる何か、例えばウェアウルフの牙など対象の一部をお持ち帰りください」

「分かりました」

「一週間もいらねえよ」

「おう!」

「お気をつけて行ってらっしゃいませ」


 情報が書かれた依頼書をそのままもらい、三人はギルドを後にする。深淵の森は歩いて半日ほど、馬車で途中まで行けばその半分程の時間でたどり着ける。まだ太陽は真上にも上っていない。


「うし、今日中に終わらせるぞ」

「おう!」

「え?」


 今日中ということは夜にはギルドに帰ってくるつもりなのか。ということはウェアウルフと日中に対峙するつもりか。ルイは二人に問う。


「夜まで待ちませんか?寝ているウェアウルフを襲うだけで済むじゃないですか」

「は?」

「お?」


 二人の顔が固まる。そして、軽蔑するような眼をルイに向けた。なんだこいつ、みたいな顔をしている。


「お前、えぐいな」

「お前ひどいやつだな~」

「……」


 なんだかルイは腑に落ちない。まっとうな意見を言っているはずなのだが、多数決ではルイの負けだ。


「正々堂々いこうや」

「そうだぞ~お前ひどいぞ」

「す、すみません……」


 やはり腑に落ちない。


「と、とりあえず行きましょうか……」

「うし!」

「おう!」


 三人の世界を救う物語が始まる。

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