第14話 親子の決意
ギルがはっきりと意識を取り戻した時には日が暮れていた。
あたりがやけに騒がしい。小さな子供の声と若い青年の声、それになんだか聴きなれた声がする。楽しそうな。そんな暖かい声がする。
目を開くと天井。ここは医務室だろうか。医務室にしては、にぎやかだな。とりあえず体を起こしてみる。まだだるさはあるが、動けないことはない。きっとキャメルが治療してくれたんだと、心のうちで感謝しておく。
「あ!おっさん起きた!」
「ギルド長!」
「遅ぇぞおっさん」
賑やかな声の主たちはすぐ近くにいた。ギルが寝かされているベッドの隣に彼らは居た。隣のベッドではライト君がすでに体を起こしており、そのベッドの端にミカが座り、キャメルは椅子を持ってきて座っていた。
恐らくライトの怪我もキャメルが治したであろう。キャメルの表情に疲れが見える。重症者二人を治療したのだ、無理もない。
「ライト君……君も、やはり強いな」
ライトと同じように、ベッドに座り声を掛ける。「へへっ」とライトは笑う。照れているというよりは、お世辞を聞いているような顔をしている。お世辞なんかではないというのに。
「私と相打ちに持ち込めるものがこのギルドに何人いるか。君、いや君たち親子は間違いなく最強の討伐者になれる」
「勝ってもねぇのに褒められても嬉しかねえよ」
「ボクは嬉しいよ!」
父と娘で表情が全く違う。ライトは自分によほど厳しいらしい。ライトをそうさせる何かがあるように思えた。
「あんた程の実力者が頭張ってんだ、ギルドも多少は信頼できそうだな」
にやりと笑うライト。そう言えば彼らは話を聞きに来たのだったと思い出す。
「体が本調子に戻るにはもう少し時間がかかりそうだ――――どうだろう、ここでも良ければ本題の話をさせて頂けないだろうか?」
「そうだな、それがいい」
「?」
ミカは何の話か完全に忘れてしまっているようだが、ライトが理解してくれれば大丈夫だろう。
「それでは――――」
ギルは話し出した。
ミカとの出会いを語るにあたって、ルイとの出会いから。そして、ミカを討伐者としてスカウトする経緯。
ライトは静かに聞いていた。腕を組み、俯きながら聞いた。ギルがすべてを話し終わると、ゆっくりと話し始めた。
「……なるほどな。そのルイとかいう奴と三人でパーティーを組めと、そしてそれは世界を救うためだと?」
「ルイ君の異能は独りではなかなか活躍しきれない異能だ。尋常ではない早さで順応するとは言っても、一対多になった場合どうしようも無くなってしまう……君たちがパーティーになってくれたらとても心強いんだ」
「うーん……」
「もちろんただでとは言わない」
ギルがキャメルに視線で合図を送る。受け取ったキャメルは医務室を出、どこかに行ってしまった。
「どこへ?」
「雇用契約書を取りに行ってもらった。もしルイ君と共にパーティーを組んでもらえるというなら君たち二人をギルドが討伐者として雇用させてもらう。君たちをギルドが全面バックアップする。もちろん報酬も普通の討伐者よりもよくなる」
どうだろうかとギルはライトに問う。ライトは腕を組み、俯いたままだ。
ただの討伐者ならライトとミカの実力があればそれほど危険なことはないだろう。ライトの第一優先はミカの命。なにがあってもミカが命を落とすことなんてことがあってはならない。討伐者になることを選んだのも、ライトとミカの実力を鑑みたうえで、今の経済状況では生きていけないと判断したからだ。
しかし、大穴に挑むなんてふざけた計画に巻き込まれるとなったら話は変わってくる。世界を救うことなんかに興味はねえ。ルイとかいう野郎もどんな奴か分からねえ。
元々ただの討伐者でやっていくつもりだったんだ。雇用契約しなくたって今までよりも稼げるし、十分生きていける。
「お父?」
「どうした?」
ミカがライトの腕をつつく。ライトが目を開くと、とても不思議そうな顔をしてミカが覗き込んでいた。
「悩んでるのか?」
「ん?んーまあなー」
「どうして?」
「どうしてってそりゃあ……」
「困ってるやつがいるんなら、助けてやればよくないか?」
「おぅ……」
ミカの言葉は真っ直ぐだ。どこまでも、果てしなく続く地平線のように。だからこそ守りたい。親として、家族として。
ライトは微笑み、ミカの頭を撫でる。
「分かったよ。ぱぱっと救うか、世界」
「おう!」
絶対に守る。ミカも、純粋な心も。
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