外ー3 くぁzすぇdっfghyjk!?!!

「え」


 しかし、気付いた時には遅かった。

 座って引き出したままにしていた椅子に月英は足を引っ掛け、あっけなく体勢を崩した。


 ――あ、これ絶対痛いやつ。


 受け身をと思えど、手にした桶が邪魔をする。

 両手を塞がれ、足元は椅子に邪魔され、月英はきたる痛みに早くも薄らと涙を光らせていた。

 しかし、きたる痛みは来なかった。


「……うん?」

「――っぶな……!」


 寸でのところで手を伸ばした万里が月英の腰を抱き寄せ、地面との激突を防いでくれていた。


「バッカ、オマエ……それでも先輩かよ。もっと気を付けろよ」

「うへぇ、仰る通り。ごめん万里、助かったよ。でも桶を手放さなかったのは褒めて?」


 無事な姿の桶を、したり顔で見せびらかす。


「まずはけんな」

「ごもっとも」


 月英が肩を小さくすぼめると、苦笑が背中から聞こえた。




「ったく……ほら、自分で立――――――は?」



「あ」



 上体を起こしてやろうとした万里の優しさと、月英の身嗜みに対するずぼらさが、至上最悪の形で実を結んだ。

 万里の手は、しっかりと月英の胸に触れていた。

 急に彼が帰ってきたことで、すっかりさらしを緩めたままだった胸に。

 お互いが、そのままの状態で硬直していた。

 互いの額には、ダラダラと嘘のように汗が滲んでいる。

 確認するように、万里の手がぎこちなく動く。

 手の下には、ささやかだが男には無い確かな膨らみがあった。


「――っふ」

「――っう」


 月英の手から桶が落ち、騒がしい音を立てた。


「ふぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!!」


「うぅぅうぅおわあああああああああああああああああああ!?!?」



 さらば、短かった香療師生活。

                                      【了】



――――――――――――――――――――――

二章ラストまでお付き合いくださりありがとうございました!

不穏なラストですが、あまり不穏に感じない二人だなぁと書いてて思いました。


コミカライズがフロースコミック様で3月からスタートします。

また二巻が『4/10』に発売されます。


ウェブの内容より燕明との絡みが増えております。

また猫美がなぜやってきたのかや、猫太郎の猫美への態度もマシマシにしております。

とても素敵な挿絵とカバーになっておりますので、お手にとっていただければ幸いです。


今後ともよろしくお願いいたします。

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