終ー10 もう一人の香療師
「――それでは最後に、皆さんに紹介したい者がいます」
毎朝恒例。呈太医のまろやかな声で始まる太医院の朝礼。
医薬房と香療房の全員が揃って――と言っても、香療房に関しては月英一人しかいないため、毎朝月英が医薬房に顔を出して行われている。
いつもであれば、呈太医の皇族に関する健康報告から始まり、医官達の報告へと流れるて終わるのだが、どうやら今日はまだ終わらないらしい。
紹介したい者とは、新たな医官でも配属されるということだろうか。
「誰だ、こんな時期に。また月英みてぇな臨時任官か?」
豪亮が首を捻る。
彼曰く、医官の場合、医学を卒業し無事に医官となった後は一斉に配属されるらしい。よって、このように突然にやって来ることは珍しいとのことだった。
「今度こそ、ガチで使えねぇ奴が来たらどうしようか」
豪亮の言葉に、医官達は月英を一瞥し天を仰ぐ。
口々に「使えても猿はごめんだ」「いや、隙あらば薬草を食おうとしない奴がいい」「陛下を陛下と認知してくれる人なら後は何でも」などとぼやいている。
まさか太医院に、薬草を貪り陛下に無礼を働く野生の猿が出るとは知らなかった。猫太郎達が襲われたら大変だし、今度からは注意しないと。
決意固く小さく拳を握った月英を、隣に立つ春廷だけが湿った目で見つめていた。
「では、入ってきなさい」
呈太医が扉の陰に視線を向ければ、浅葱色の医官服を纏った青年が、堂々とした歩みで房へと入ってくる。
「………………うそ」
入ってきた青年を見て、月英は眦が裂けんばかりに目を見開いた。目ばかりでなく口も、餌を欲しがる魚のようにパクパクしている。
隣の春廷を、これまた口をパクパクさせながら見上げれば、至極愉快そうに目を細められた。
しかも、驚きはそれだけでは終わらない。
「今日から、太医院の香療房に配属になった春万里です」
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