二章 二十二歳にケーキは無い
二十二歳 成人男性 元清掃業 七絶の誕生日にケーキはなかった
話しは少し遡り退職後にコンビニで手にした求人誌から始まる
帰路の電車にて
スゥー‥ぺらっ‥ぺらっ‥スゥースゥー‥
求人誌を捲っては候補に当てはまる仕事に丸をつける
電車はガタゴトガンガン音を出しながら爆走しているが車内は時度静かになる
その時求人誌を捲りボールペンを動かす音でさえ際立つ が
車内でこの昼間十五時過ぎから、酒を飲んでレバニラを食べてるとんでもないおっさんが居たので 七絶はその空間にいてもそこまでキツくは無かった
(いい匂いだが顰蹙買うぞおっさん)と頭の端で思いつつフリーペーパーを吟味。
ものの三駅先なのでどうでもいい事を間に挟むと直ぐに着く
七絶は高校の頃一発目に勤めたバイトが面倒な所だった
引越し業者で時給千円と当時にしては良かったが上手い話には裏がある
仕事で必要な備品五千円分購入、十三時間勤務、昼飯無し、夜飯は帰路か家、勤務中トイレ一度でも禁止「汗として出せ」だそうだ
自分が我儘なのか駄目押しで確かめる為昼飯時珍しくリア充連中の席に行き話題を振ると
「あそこの引っ越し入って続いた奴一人もいねぇよ、労基に引っかかって干されてたし」
「隣の高校のダチも言ってたなぁ、まぁこんだけ手広くバイト虐めりゃ誰かしらリークするわな」
当時 高校生ながら時代遅れの携帯電話で検索すると民報でニュースになった記事が出てる
世の中の悪は殆どが干されず闇に溶け込み甘い汁を吸って生きている こんな結果は珍しいと思いつつ因果応報だなと思った
この教訓から学んだのは
「多少なり給料安くてもいいから人の良い所に着こう」である
このリア充ランチで手に入れた情報を纏めると
・コンビニは以外に仕事量ある
・居酒屋、ファミレスバイトはチーフの人格が良いと周りも明るい人格者が多い
・倉庫やビラ配りは一人の時間が多い
・地元の引っ越しは法に触れた所だから除外
・ガテンは時給良いが疲れて学校で寝るぞ 後コミュニケーション取れない奴はキツイかも
と言った結果になった
悪魔で七絶の地元を総合した見解。
この過去の経験から勤務目的としては矛盾する安く、そして 人と関わらない所 を探していた
結果今週の求人誌でそれらしいのは見つからず次の月曜迄ネット求人を漁るほか何も無い、
普通焦りのある人間ならぱ毎日三件位電話しておき面接→その中で第一候補に近い所に受かれば就職する
がセオリーだろう
だが七絶は違う、七絶は用心深い、過去のデータとは言え他人の情報量、少ない上に絶対の信頼性は無い
それでも「他人の性で仕事を辞める」「不快に働く」確率を極限迄減らしたかったので
一度入ってこれ違うから辞めよう より
面接で人間のフィーリングをこの先続けられるか吟味、帰路でデータと摺り合わせ大丈夫なら勤める
という思慮を持っているため
相手から合格を貰っても
「他が決まりました すいません」で通していた
皮肉にも面接で相手を面接している人間それが七絶。
結局それは入らないと解らない為、今退職し再び仕事を探しているので彼の行っていることは、大きな確率の除外 にしか過ぎない
それでもしないよりはマシと思い月曜日にまたフリーペーパーを取る
地元だと全然来ないのでわざわざ都心の駅に降りて出入り口付近から回収して近くで時間潰す日を繰り返していた
親元暮らしだから出来る 情けない選択肢だ
これが最初の一週間、二週間目は緩やかに心に負担もなくて良かった
三週目あたりから焦りが出てくる
「そろそろ仕事につかなきゃ‥」
「遊んでる自分は悪い事をしてるんじゃないか‥」
彼は前清掃会社の上司分も働いて反動もあったのかワーカーホリック気味になっていた、無論誰にも相談しない彼に「可哀想」という言葉はなかった
九月を迎える頃には誕生日を迎えた
「いやコイツ六月に辞めて七月前でヒイヒイ言ってて九月じゃねぇか」と思った読者様、鋭いご考察をお持ちで
いざ就こうとしても「失敗したくない」が上回り心は痩せながらもズルズルと行き、結果はこのようになったのです
この時間はとても応えましたがそれ以上に前の職場で苦痛が嫌だった為板挟みの苦しみを味わいながら仕事探していたのです。
金が緩やかに尽きる中お節介な婆ちゃんがケーキを買ってきてくれました
「‥‥いい‥かな」
自室でぼそりと白いショートケーキを視て呟いた
(仕事もしてない奴がケーキを喰ってもいいのか?)
七絶はここまで考える様になり、友達の家で食べてケーキは足が早いからと申し訳ないが返した
無論友達なんぞいない
こうなると緊急的に切り上げる様に候補を仕方無く決め、電話をやっとここでする、そして決まる
バイトではあるが二ヶ月更新のピッキング、商品を棚から卸しダンボールに詰める仕事に就いた
あれだけ悩んでいたが七絶は外面は童顔の優男、少々目付きは悪いが腰も低く若さとの足し算で一発で採用
「この仕事に就いた理由を教えて下さい」
「はい 季節に左右されず長期勤務も可能との事で選択しました」
本当は二ヶ月更新なら最短酷い職場なら二ヶ月で辞められるから、もっぱら季節なんて関係ない
「えぇ〜‥っと貴方は「他で正社員の職を働きながら務めたい」 と履歴書にありますが」
「はい 定かでは無いですが色んな免許を取得しその中で合う天職があれば務めようと考えてます」
これもいつ辞めてもいい言い訳の一つ
弱点はこの事情を述べると「勤めるスパンが短いバイト」と相手に刷り込んでしまう事
故にこの一言で不採用もあっただろうが
「いやぁ〜若いって良いよねえ、まだ何にでもなれる可能性あるもんねえ、おじさんはこの工場潰れたらもうなんにも無いよ」
卑下しながら談笑してくる
(おっ!話し易い)
「そんな事ないと思いますよ」
テンプレートで返す
「世辞でもありがとね、若い子は直ぐ辞めちゃうから二ヶ月更新にしたんだけどこれでも二日目で音信不通もあるからね、君は多少なり続けてくれそうだから採用にするけどいいかな?」
と、このような具合で採用 チョロいな。
ピッキングバイトの人達は、この町では珍しく「当たり」の人種に近かった
出勤してちゃんと挨拶と返事していれば皆接しやすい
一人自分の応援している野球チームが負けると不機嫌なおっさんバイトがいたがその人でも挨拶してれば軽い笑顔で返事する
何でもバイトと割りきって碌に挨拶もせずシカトする若い子が多かったらしく、比較して良い子と認識され可愛いがられた
昼飯を従業員休憩ブースで食べてると年上の三十代位のギャルっぽさの残る茶髪に化粧の小柄な女性が声をかけて来た
「新人君もこっちで食べよ〜う!」
ちょっと馴れ馴れしいが女性に声をかけられるのは嬉しいし、浮いて食べてたので少し助かる
そこにメインメンバーであろうもう一人背は百五十センチ程で黒髪一重の三十代の女性と
四十代の青いアゴヒゲ眼鏡の男性も来た
「七絶君は仕事探してるのかー」
アゴヒゲさんが喋る
「目ぼしいのが無いんですけどね‥」
「もうここにいなよ〜」
三十代のギャルが挟む
「それも良いかも知れないんすけどボーナスあるかないかは将来大きく出そうで」
「おっ?おじさんに喧嘩打ってんのかな?」
フランクに返すアゴヒゲ先輩
「ははっ‥そんなつもりは‥」
「けど老後はちょっと心配だよねー」
黒髪一重の先輩も交ざる
こんな生産性があるんだか無いんだか解らない話を三十分弱話し午後勤務に戻る
今 思えばこの仕事を続けていたほうが良かった
だがこの職場で同じく三十代の二重でポニーテール、声は少し小さいが物事ははっきり言う女性に言われた
「ここに居続けない方が良いよ、こういう所にいたらずっと結婚とか出来ないしずっと親元に寄生してないといけないから」
幼稚園の先生の様なその女性は切に語った
何かこの人にもバックボーンはあるのだろう、深くは聴かないのが七絶だ
「俺もお金は欲しいですし、どんどん税金上がりますもんね 多分何処かで正社員を目指すと思います」
社会の教科書に書いてあるような内容で返事をした
「そうしなそうしな」
ポニーテールが少し緩れて微笑をくれた、少しこの人の事がかわいいと思ったのと同時に辞めればもう視れないんだな と寂しくなった
探しだす中で七絶は
「働く=辛い」
と認識しており、この答えを
「働く=ストレス発散」
に出来れば良いのでは?と考えていた
無論そんな答えは天性の職以外無いかも知れないし、「小ストレス」でもマシな方だろう
そんな中それに近い答えを出した
「ペットショップ」だ
接客は神経を使うだろうが毎日仔犬、仔猫の世話をする、それは詰まり必然的に接するという事
他にも闇はあるかも知れないがそれは他の職も同確率 ペットショップの大半は最低賃金で良くも悪くも条件に一致するのが多かった
だがどの求人を観ても正社員希望は「トリマー資格有」「動物専門学校卒業済」等
ただビルでゴミを取って回収していた人間が勤められる条件は見当たらず
なけなしの金で通信の資格でトリマーの資格に応募 これが八万もしやがった
「「届いた筆記採点を修了すると小型犬の人形が来ます、それを一時間以内にブラッシング、カットし再送、その後七十点以上であれば資格取得証明書を配送します」か」
「こんなんで良いのかよ‥ってか一時間なんて家で一人でやるんだから誰にもバレずに時間超過してやる奴いんだろ‥」
ブラッシング途中人形の尻尾が取れたが剥き出しの針金尻尾を尻に刺し直し見事合格
だが次の仕事はうまく行かなかった
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