一章 退職飯
二十一歳 成人男性 清掃業の七絶(ななぜ)は退職した
理由はむかつくから
は内なる真実として表側は
「キャリアアップの為」と記入し退職
言った時 部署で一番偉いだけのマネージャーにブチギレられたけどそんなの知らん、俺が消えた分働いて苦しめ
「むかつく」だけ聴くと
我儘に聴こえます、これを紐解くと
・モラハラ・パワハラ・全否定・上司分の仕事・サービス出勤、残業・騙し討ちエトセトラ‥
その感情の総称と捉えて頂ければ幸いです
後 退職届け初めて書いてる時ちょっとドキドキしたよね
「これで終われるっ!!!」
って思いもありなから
「これを書いたら収入ゼロになる!!」
とか、ちょっと悪い事する時のスリルに似てたものを感じた、アドレナリン出まくってたと思う
例えるなら 遠足にコーラ持ってくやつだね
小学生時代 同学年で最後迄お茶と言い張って先生にしょっぴかれて泣いてた奴がいたが 要は遠足コーラです
バレた時のペナルティ、切り抜けた時のヒリつく快感
そんな書類を記入し提出、十時前に釈放されビルから出て娑婆の空気を吸う
居た会社なんざ刑務所と一緒よ
ここで祝いにファミレス、と七絶は行かない
再就職が何ヶ月先になるか解らないから派手な出費をする気はないのだ
だが、ちょっと良いランチにすることにした 間をとった応え それは
「格安スーパーでちょっと贅沢するランチ」
だった
七絶は駅直結の元会社より十分位離れている格安スーパー で ベロッベロに甘口タレのかかった焼き鳥二本、バニラの箱アイスとチョコパフェアイスを一つずつ、罪滅ぼしにバラ売りの激安きゅうりを一本籠に入れセルフレジへ
七絶は酒を飲まない甘党なのでこれが彼の贅沢なのだ、ケーキも好きだがどうにも糖分を吸収しやすい遺伝子なのか
小麦、砂糖、果糖は余程でなければ彼は口にしない
まぁこれでも普段豆腐と鶏肉ばかり食べてるボディビルダーみたいな生活してる分、偶のこんなチートデイでも調律が取れるのだろう
今は六月の一日、もう五月でも昨今は暑い為 公園の日影にて買い占めた相棒達の入ったレジ袋を
クシャシャ
と音をたててベンチに置き、少し早い昼飯を嗜む
「まずは野菜から食べんとな」
彼は人が周りにいないと解ると独り言を言う癖がある
「やっすいキャベツの千切りに安い順中華のタレが染みた可も不可も無い野菜を食べて‥」
「次はベロベロに甘ダレのかかった焼き鳥を喰!?」
「ママァーーーー!!!おんぶしておんぶ!!!!」
「暑いからちょっと静かにしてて、ねっ?」
ヤバイ親子連れが来た 独り言モードはここで終わりだ
黙々と纏わりつくタレを口にかきいれる
(うん、美味いわ)
肉の塊を二つ食べたらワンクッションに胡瓜を噛む
それを終えるとお待ちかね箱アイスだ
(これだよ!狙い通りだ!)
何故こんな暑い中 日影越しとはいえ外で昼飯を食べていたのか
それは策士七絶によるこの瞬間の為
(アイスが程よく溶けている)
個包装されたビニールを立てに裂いて少しだけ溶けてくっつき初めたバニラアイスを口に運ぶ
最初はチョコよりバニラで行きたい派なのだ
(うんめぇ、アイスって冬が一番売れるらしいけど意味解るわ、いつ喰ってもうめぇ、キンキンよか少し ヌルッとした 舌ざわりの冷たさに変化した時 気のせいか甘みが柔らかくなりより美味しくなる
人間やってて楽しい事が殆ど無くなっても「食べる」は生きる事に直結するからだろうか、こればかりは幸せをはっきり感じられる
同時に食い過ぎの罪悪感もあるが
そう思いつつ次はチョコパフェアイスへ
昨今日本のお菓子コーナーにいけば大半が「チョコ+なにか」のお菓子が目立つ位チョコは無難
チョコビスケット、ナッツチョコ、マシュマロチョコ、高カカオチョコ、カプセルチョコ、苺チョコ、マシュマロチョコ
ほんとに多いから皆さん 特別地元は名産しか並んでないよ て方以外は店覗いて観て下さい、関心があればで結構です
そんなチョコを口に入れる、溶ける、美味い
七絶は酒を飲まない甘党、故に会社でストレスがあるたび甘い物を摂取するローテーションが続き辞める一年前からは
仕事終わりにパーティーパックのチョコ二つ、箱アイス二つ、アイスパフェ一つをほぼ毎日食べてた
甘い物は彼の様に節度を守らないで食べると倦怠感が生じるが
タンパク質や食物繊維と合わせて食べれば本来害は無く良い物
中学生の頃「お菓子は一度に食事を食べ切れない幼児の栄養補給食品で大人はご飯食べてれば別に要らない物です」
と家庭科の先生が言っていたが
今の七絶はそんなの知らん、知ってても知らん、ただ美味いから食べる
「あぁ美味い、脳からドーパミンだかアドレナリンだか良く解らん汁が垂れ流れてくるようだ」
周りの親子連れは暑さで早々に帰ったようだ
昼飯とアイスを喰い終わると七絶はトイレを探す
主に歯磨きを主として、だがトイレで歯磨きしてもこの世では手を洗う人間がいるから肩身が狭い
かといって金を出せば専用の歯磨きコーナーが町にあるのかと言えば無い
偶に優れたスーパーで歯磨き専用スペースがあると我々歯磨き民は助かるのだが
やっぱりこの町には無い
七絶はスーパーでショバ代変わりと思いながら申し訳程度に別に要らないガムを買い
歯磨きを早々に済ませた
「‥古本屋行くか‥」
七絶は家に何故さっさと帰らないのかと言うと、親元暮らしなのだ
親元と言ってもややこしくなるが彼は母方の両親つまりは爺さん婆さんの所に居る
特に婆さんはお節介で深夜で泊まり番した際、七絶が捨てた会社明細封筒から電話番号を控えていたのだろう
朝方会社本部の人より訳の解らない年寄りが七絶を心配しているとの事で連絡を貰う
それは勿論マネージャーにも伝わりおこられる
徹夜勤務して会社のお偉いさんに何故シバかれなければいけはいのか
この様な相手の事を考えられない行動を七絶は優しさとは決して捉えていないが
それでも帰宅し惣菜を一、二品冷蔵庫に要れてくれてる時は助かるとも思っている
七絶は人間は0と1の二進数の集合体の様なものとして接している
人間は「何かは出来るが何かは絶対に出来ない」と
例えば
・人を裏切り続けた人間でも、ふと人を信じたいと思い助ける
・今日はなんとなく気になる子に声をかけよう
という事は無理だと。人を裏切る奴は何処までも裏切るし、
昨日好意を寄せてる人間に声をかけようと考えているやつは考えてるだけで実行に移さず次の日も同じ事を考えているだろうと
駄目な奴は何処までいっても駄目
出来る奴は何しても出来る
人間は脳内の電気信号で命令しそれで動くと聴いた事があるのを間に受けているのもある、パルスだかなんだか
それを総合したのが七絶の心情。
なので今帰宅するとつっ込まれるから意味も無く古本屋へ来た が二時間と保たない
七絶は衝動買いを余りしないタチ、
「これは必要」「買う意味が無い」と考えられるので誘惑の断ち切りが出来、無駄な買い物が無い それが今回裏目に出た
年の割にゲーセンも行かないし、パチンコもしない、まずやり方が解らない、解ってもやる気は無い
「友達かぁ‥」
ふと呟く 七絶は高校の時つるんでた友人は全て切り捨てた、というより音信不通になった孤立してた、勝手にすり寄ってきた、それらが徐々に音も無く離れて行ったに過ぎず、同仕様も無い癖に自分を踏み台にした連中に吐き気がしたからだ
「もし友人が何人か要れば、一人位は今から遊べるんじゃないか」
そう虚しく思う七絶であった
だが一人だけ居る、高校の頃オタクグループに居たのだが、居酒屋バイトで他校の彼女が出来てからマウントを取り、卒業迄孤立してた山口が
勿論こんなやつ友達じゃない
「友達」という概念はこの世に無い、弱い心で擦り寄せ保つ「精神安定契約」だ
それでも過半数の人間は「一人は寂しい」「グループに居ないと攻撃される」そんな弱さから肩を擦り寄せ合う者が多い
本当に背中を預けられる、陰口を言われてもその内容を本人の前でも「悪口」として言える 間柄が最低限友達だろう と七絶は思っている
無論この町には該当者がいないので孤立を続けている。
「‥プロットでも考えるか」
こんな七絶でも夢はある、いやあった
漫画家になりたかった。
だが彼は辞めた、自分の「夢」である世界、キャラクター達を能力の無い編集に説教を受け改ざんされまくったもの「夢」とは言えない
だから「辞めた」が漫画を描く事を辞めてはいない
世の中編集無しでもSNSの投稿で高評価を貰い出版、成功すればアニメ化、映画化もしている者がいる
それは「出版社」という組織を持たない以上物凄く険しい道ではある。
なのでまずはオリジナルの同人誌でも良いから作ろうとぼちぼちプロットと言われる
漫画全体を構成するシナリオでも今 練ろうかと考えている
きっとファンでも入ればもっとやる気出るんだろうなと思いつつ創るので
描いて評価が無い、低いとモチベーションが下がり彼の漫画は一向に筆が進まないのであった
これも先に言った「最悪を想定している」のだが「心が追いつかない」やつになる。
だから小さい労力である入口のプロットなら彼は何個もストックしてある
また描くか解りもしないストーリーの束を
古本屋のトイレ脇ベンチに座り
A6のノートに綴った後
時間は十五時二分を指し、早上がりと言えば通じる時間を確認した後
コンビニからとある雑誌を一つ拝借し帰路に向かう
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