ミーム

赤城ハル

第1話

『なんなんぽれ〜』

 テレビ画面からリーゼントヘアーのお笑い芸人がブリッジを言う。

 それに子供達はテレビに夢中になり、きゃっきゃっと笑っている。

「どういう意味?」

 ダイニングで母が真顔で私に聞く。

「さあ?」

「ネタが分からないのだけど?」

「私も分かんないわよ」

 リーゼントヘアーの芸人がやったのはフリップ芸。そのフリップのネタは繋がりも語呂もメッセージ性もないネタ。正直、おかしな絵で無理やり笑いに持っていっている。

「ああいうのは考えては駄目なのよ。雰囲気よ」

 私は溜め息交じりに答える。

「雰囲気で笑う?」

 母の顔が険しくなる。そしてリビングにいる子供達を見る。

 子供達は「なんなんぽれ〜」と真似をして楽しんでいる。

「訳がわからないのが逆に面白いんじゃない?」

「えー? うーん? そう?」

 母は首を傾げる。

「そうそう。ま、どうせ一年経ったら忘れるわよ」

「あら? それじゃあ、この前流行ってた『鬼やっべーな! キメちゃってるぅ〜』だったけ? あれは古いの?」

「……それ一年どころか三年くらい前よ」

 しかもあんまり流行ってなかったし。

「古い?」

「古い。伝わらない」

「若い子の感性が分からないわ」

 と、母は心配そうに言う。

「そう深く気にすることないわよ」

「あんたね。自分の子が変に感化されて、おかしなこと言ったらどうするのよ」

「大丈夫じゃない? 今はお笑いに厳しいから。暴力系は放送倫理なんたらに引っかかるから放送出来ないらしいし」

「あー。だから会話系が多いのね。昔はアスレチック型のアクション系やチャレンジ系が多かったわね。でも今はスタジオでMCと告知できた俳優がVTRを見たり、喋ってる系が多いわね」

「う〜ん。それは予算じゃない?」

「予算?」

「お金がかかるんでしょ?」

 あと、テレビを見ている年齢層が年寄りだというのも起因の一つ。

 今の若い子は投稿動画を見るから。

 そのため番組は会話系、家庭の医学系、刑事ものが多い。

 そしてお笑い番組が終わり、子供達はダイニングにやってきた。

「お腹空いたー!」、「空いたー!」

 ぴょんぴょん跳ねながら文句を言う。

 まったく、この子達は。

「もう! とっくにご飯は出来ているわよ」

 私は席を立ち、子供達のご飯の支度をする。

 そして子供達はカレイの煮付けを見て、

「なんなんぽれ〜」、「なんなんぽれ〜」

 と言う。

「カレイよ。お魚」

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ミーム 赤城ハル @akagi-haru

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