日の翳り

海から上がるとサキが退屈そうに待っていた。だいぶ時間が経っていたことに気づかされる。

ホテルまで送ってあげるという彼の提案を、「近くのショッピングモールを見たいから先に帰ってるね」と断ったサキ。


そりゃそうだ。

な女子なら、ビーチで声をかけてきた男の車に易々と乗り込んだりはしない。

でも……私は彼ともう少し一緒にいたかった。


結局、サキは一人でモールに行った。

昼間の太陽は勢いを失い、少しだけ日がかげりはじめていた。

海水で濡れた肌を撫でていくカラッとした風が、どんどん体温を奪っていく。


肩からタオルをかけて座る背後から、彼が突然私を抱きしめた。

タオル越しにまわされるたくましい腕。

「寒い?」とかなんとか聞かれたけど、私は突然のことで頭が真っ白になった。

目の前の海を見ていたから、彼の表情がわからない。


なんで? なんでそんなことするの?

彼の気持ちがわからなかった。文化が違うから、スキンシップも当たり前?

でも、タオル越しにすっぽり彼に包まれているのが心地よくて。そんなのは次第にどうでもよくなってきた。彼の息がわずかに首筋にかかってこそばゆい。


「車で送るよ」という彼の後を追って歩く海岸線。

途中で、サーフボードを抱えた若い男女のロコ集団とすれ違う。

中の一人、白いビキニをつけて腰まで伸びた髪を垂らす女の子と親しげに挨拶を交わす彼。早すぎて私には聞き取れないネイティヴ英語。

どうやら彼はビーチで顔がくらしい。

こうやって何人もの女の子に声を掛けているのかもしれない。私もいいカモかもね。

その思いが胸をかすめてチリチリする。


駐車場に着くと、古びた赤いピックアップトラックの荷台にボードを積み込む彼。当然のように助手席のドアを私に向かって開ける。


車中でも私たちは言葉少なだった。車内に流れる知らないラジオ番組。

私は、これからどうすればいいの?

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