ラッフトレイン~笑いま線~
ケーエス
笑わさなきゃ降りられない!
「布団が吹っ飛んだ!」
「失格! お客様、パクってはいけません!」
「ぐはあっ!」
車掌に殴られ寒ギャグ親父はまさに布団のごとく吹っ飛んでいった。彼は再び6号車からのスタートだ。
「次のお客様、どうぞ」
「はい…」
俺は前に出た。目の前にはパッと見弱っちそうな車掌と無表情のヤングアダルトな女の子が吊革を持って立っている。130kmも出ているであろう列車がカーブに差し掛かるたびにぐらんぐらん揺れている。重心が定まっていないようだ。いやそこは問題ではない。
この列車は女の子を笑わさなきゃ降りられないのだ。
「お客様、ICカードのほうを」
車掌がビックリ箱のようなものを差し出した。
「ええ」
俺は箱の上にある読み取り部分にICカードをしっかりくっつけた。ピッとこの場に似合わぬ音が響いた。
『ピロピロピロ…』
ひと昔まえのコンピューターのような音を出し始める箱をじっくり見つめる。後列の乗客も固唾を飲んで見守る。女の子だけは窓の外を見ていた。街が一つの塊のようになって追い越されていった。
『お題! こんなリモートミーティングは嫌だ!』
箱が出したお題は大喜利だ!
「ではお客様、30秒以内にお答えください、スタート!」
車掌が覇気の無い様子で言った。
さあどうするどうする、リモートミーティング、カメラ写りが最悪とかか? いや普通すぎる、自分だけ入れないとか…悲しいけどありきたりすぎる!
「20秒…」
冷や汗が止まらない。待てよ、待てよ。焦るな、焦るな。こんなのはどうだ。途中でゲームをクリアしないと延長できないとか、ううん逆に楽しいな。
「10秒…」
女の子はまだ外を向いている。少し顔がほころんでいる。ちょっと綺麗なのが腹立つな。帰ったら彼氏に誰にも見せない笑顔とかふりまいて…ん?
「しっか…」
車掌の声を遮って俺は言った!
「パソコンに甘い口づけをしないと開かない!」
さあ、どうだ。渾身の回答だ! 女の子はどうだ?
「あはは」
彼女は声を出して笑った。彼女が笑った! 笑ったぞ! 車掌は目を見開いた。乗客たちもどよめいた。俺は車掌の方を見た。彼は、
「合格です。この電車は次の駅で停車いたします」
と言った。
「やったー!」
俺は雄叫びを上げ、膝から崩れた。周りには乗客が駆け寄ってくる。
「すごいですね!」
「お兄ちゃん、天才!」
「マジパネエよ!」
みんな口々に興奮を言葉にしていく。車掌も運転席に連絡しながらにこやかな表情になっている。車内の空気が一体化した、そんな瞬間だった。あれだけ弾丸のごとく飛ばしていた列車も速度を落とし始めた。だが一人だけは違った。
「笑ってないよ」
「え?」
みんなが女の子の方を見た。
「どういうことでしょう?」
車掌が尋ねた。
「私、久しぶりにここの景色みたから嬉しくて、笑っただけで…さっきのは別に」
別に……?
「よくわかんなかった」
よくわかんなかった!? 俺の頭の中がポカーンとなった。何かでかち割られたみたいだ。
「ということは…?」
「お客様、失格です」
彼は鬼だった。
「ちょ、ちょ、ま」
車掌の鉄拳が俺の腹に直撃した。体が浮いて、そのまま後ろに引っ張られる––––。
あれ? 女の子笑ってない? コイツ、人が飛ばされる時に笑ってるなあああ!
俺は1号車から6号車までひとっ飛びした。列車は再び加速して、環状線を滑り始めた。
ラッフトレイン~笑いま線~ ケーエス @ks_bazz
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