第10話 十話


 いかん、いかん。

 何かを持ってかれそうになってる。

 乙女の大事な……けしからん、これは、まずい、非常にまずい。

 等々力くんの両手首を掴んで、自分の目の前で両手を、ぱちんと音を立てて打った。

 セルフ猫だまし。

「これは何?」

 されるがままの状態で、ポカンとしている。

「大丈夫、こっちの問題だから」

 目に力を入れ直した。


 二杯目はミルクティーを注文した。

 等々力くんも同じく。

 そういえば、さっきから同じものばかり頼んでいるけど。

 この地球外生命体の主食って、何?

 好き嫌いはないとか、言ってたような……。

 いや、根本的にこれからの(私を含めて)地球人類にとって、極めて大事なことだわ。

「……等々力くんて、好き嫌いないって、言ってたわよね?」

 普段の何気ない感じで、質問をする。

 表情は穏やかに、胸のぞわぞわは隠しきっている、はず。

「そうですねぇ、僕は調味料無くても、ほぼ大丈夫ですよ~、素材の味を楽しみたいですし」

 おい、いつから元店長との会話聞いてたのよ。

「調味料の話はやめようね、まだ、記憶に新しいから……」

 口元だけで微笑みの形をつくり、それ以上は言うなと、無言の圧をかける。

「あっ、いざという時は、何でも食べるって意味で、取っててくださいねー」

 何かを察したような、そう見えるだけかもしれないけれど、無邪気な笑顔で答えられた。

「わ、わかってるわよ」

 浮かんだ妄想は、意識の奥に沈めておこう。


「明日定休日なんで、一つですがどうぞ~」

 閉店間際のラストオーダーにも、嫌な顔しないで接してくれたマダム店員が、小皿をテーブルの真ん中にそっと置いた。

「「ありがとうございます!」」

 私たちは愛想がいい。

 ガトーショコラだ。

 嫌いじゃない。


「智草先輩は、僕が助けてあげたんですから、僕が食べてもいいですよね~」

 私の顔とケーキを見比べて、小悪魔的な愛嬌でニコッと笑った。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

誰にも言っちゃ駄目だよ 草凪美汐. @mykmyk

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ