第8話 八話


「今日の店長も、他のスタッフも、本物ってこと?」

「掃除屋さんの蘇生チームが、散らばった肉片から、細胞を抽出して、培養して――」

「待って、詳細はいいから」

 急ぎ話を遮る。

 今食べ終えた和風パスタが出るから、やめて。

 当分、お肉は食べられそうにない。精肉コーナーにも近づかない。

「今の地球の技術で検査して100%本人です。記憶もコピーからコピーしたし」

「……元通りって、そういう、意味ね」

「はい!」

 小悪魔的な癒し系男子の、元気な良いお返事。

「『はい』じゃないわよ」

 ジッと睨みつける。

「はい?」

 小悪魔的な癒し系男子が愛くるしく、いや、あざとく首を傾げた。

「この流れだと、私も、記憶を消されて、普通の日常に、戻れるんじゃないのかしら?」

 何の躊躇もなく、かたまり肉をやんちゃに頬張るくらいにね。

 ところが……。

「ええーっ、そっちが良かったんですかー」

 意外そうに言うので、

「今からでも、そっちのコースでお願いしますよー」

 似せて話してみるが、

「まあまあ、そっちのコースには、いつでも変更可能ですから、もう少し僕と遊んでくださいよー」

 といつものトーンで断られた。

「遊びたくないな~」

 脱力しながらストローをかき回す。

 私の平凡だった日常は、帰ってこないらしい。

 残りをゆっくり飲み干した。

 この店のジンジャーエールは、ちゃんと生姜の味がする。

 沁みるわぁ~。

 今度、一人で来よう。

「そんなこと言わないでくださいよ~」

 手持ち無沙汰で、空いたグラスを弄び、

「僕、滅多に怒らないけど、怒ると怖いらしいですからね~」

 笑顔のまま等々力くんは言った。

 殺気もないのに、滅茶苦茶怖いんですけど、その笑顔。

 やっぱり、ちょっと苦いかも。

 もう一杯、違うの飲もうかな。


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