第7話 七話

 

 店長と終業後、来月のシフトの相談をしていた。

 バックヤードに二人きりで。

「えー、八千草さんもなの。困ったなぁ」

「すみませーん」

 口だけで謝っています。

 あの子と休みたい日が被っているのは知っていた。

 同じ日のライブチケットが取れたのだろう。それらしいこと、甲高い声でくっちゃべってたもんな。

 この際、話しかけてみるか?でも、なんかいけ好かないんだよなぁ、あの子……やっぱりやめておこう。

 店長はパソコン画面にシフト表を出して、顎をかいている。

「土日祝日は出来る限り、出てもらいたいんだけどねぇ」

「先月も今月も、ほぼ出てますよ」

 大型ショッピングモールの有名チェーン店は土日祝日は忙しい。だが、あの子は先月も先々月も、土日に休みが入っていたのをみんなが知っている。

 店長のお気に入りという噂はやっぱり本当かしら。

 働き盛りの三十代。シュッとした感じで、サービス業に必須の清潔感もあり、好青年っぽいんだろうけど……

「まいったなぁ」

 スッと、何気なく肩に手を置かれた。

「お願いしまーす」

 スッと、何気なさそうに横に移動して手を外す。

 オスの匂いのするスキンシップが苦手。セクハラとまでは言えない感じが、計算なのか分からないから、現在、次のバイト先も探し中。

「了解しました。八千草さんにはいつも新人の面倒とか、色々助けてもらっているからねぇ」

「いえ、出来ることをやっているだけです」

 終業後だが、サービス業スマイルを使う。

「いつもありがとうね」

 店長にも無駄な清涼感で感謝された。


 従業員通用口を出ると、夜風がふわっと前髪を揺らした。

 明日も、晴れるかなぁ。

 雨でも、問題ないけど。

「智草先輩、何してるんですか~」

 タンポポの綿毛のような、ぽやぽやした緊張感のない声。

 空耳だ、うん、無視しよう。

「智草せんぱーい、無視しないでくださいよ~」

 呑気な声が、後ろから聞こえてくる。

「……チッ」

 聞こえるように、大きな舌打ちをした。

「智草せんぱーい」

 近距離でついて来るくせに、音量調節も出来ないのか。

「等々力くん、夜道で大声を、出さないでくれるかな」

 まだ振り向かないが、きっと、小悪魔的な愛想笑いを浮かべているに、違いない。

(噓つきめ)


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