第4話 四話


智草ちぐさ先輩、何してるんですか~」

 タンポポの綿毛のような、ぽやぽやした緊張感のない声。

 場違い過ぎて、空耳だと思ったが、

「智草せんぱーい」

 呑気な声が、今度はハッキリ後ろから聞こえてくる。

 先月入った新人バイトの男の子、同じ大学の1コ下だっけ、愛想はいいけど不器用で、確か名前は……

等々力とどろきくんは……助けられないと思うから、誰か、人をいっぱい、呼んできてくれるかな?」

 振り向けないので、等々力くんの様子は分からないが、怖がらせないように、優しくお願いしたつもりだったのに、

「無理ですよ~。結界が張ってあるから、人は入って来れないんです~」

 また、吞気な声が返ってくる。

 あーあ。

「じゃあ、何故、お前は入っているんだ?」

 今度は元店長が聞き返した。

「愚問ですよ~」

 と聞こえた途端、強い振動によって元店長の手が外れ、そのまま落下した。


「ほえっ」

 お尻を打ったが、そんなに痛みは感じなかった。

 多分、等々力くんが助けてくれた、のか?

 私と元店長の間に立っていて、元店長の顔を見上げている。

「店長、なんだか顔色いいですねぇ、そんなに地球の食べ物って栄養あるんですかー?」

 普通に話しかけているし。

(赤紫色は逆だと思うよ、地球の常識では)

「お前、邪魔をするなっ」

「ひゃっ」 

 元店長の攻撃。

 よく分からないが、風圧で二人とも吹っ飛ばされた。途中、等々力くんに腕を引っ張られて両腕に抱え込まれる。障害物の衝撃から守ってくれたようだけど……。

 いや、待てって。

 こんなバトルシーンが成り立つほど、バックヤード広くないって。

「先輩、冷静ですね。ここは店長の結界の中なので、奥行きも自由自在なんですよ」

「えっ、私の考えてること、わかるの?」

「ええ、先輩すぐ顔に出ますから」

「でも、さっきから顔は合わせてないわよ、私たち」

「あ、そうでしたね」

 頭を押さえつけていた等々力くんの顎の感触が消え、そうっと顔を上げると、

「ちょっと!」

 額から一筋、赤い血が流れていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る