第2話 二話


 ◇前置き

 私の視力は1.5です。

 もちろん裸眼で、です。

 虚言癖・妄想癖もないつもりです。


 これまでは……



 少し長い話になります――。



 店長と終業後、来月のシフトの相談をしていた。

 バックヤードに二人きりで。

「えー、八千草さんもなの。困ったなぁ」

「すみませーん」

 口だけで謝っています。

 あの子と休みたい日が被っているのは知っていた。

 同じ日のライブチケットが取れたのだろう。それらしいこと、甲高い声でくっちゃべってたもんな。

 この際、話しかけてみるか?でも、なんかいけ好かないんだよなぁ、あの子……やっぱりやめておこう。

 店長はパソコン画面にシフト表を出して、顎をかいている。

「土日祝日は出来る限り、出てもらいたいんだけどねぇ」

「先月も今月も、ほぼ出てますよ」

 大型ショッピングモールの有名チェーン店は土日祝日は忙しい。だが、あの子は先月も先々月も、土日に休みが入っていたのをみんなが知っている。

 店長のお気に入りという噂はやっぱり本当かしら。

 働き盛りの三十代。シュッとした感じで、サービス業に必須の清潔感もあり、好青年っぽいんだろうけど……

「まいったなぁ」

 スッと、何気なく肩に手を置かれた。

「お願いしまーす」

 スッと、何気なさそうに横に移動して手を外す。

 オスの匂いのするスキンシップが苦手。セクハラとまでは言えない感じが、計算なのか分からないから、現在、次のバイト先も探し中。

「どうしても、来れない?」

「はい、大学の用事がありまして……」

 堂々と悪びれもせず、嘘をついた。

 なんか店長、今回はしつこいな。

 私一人いなくても何とかなりますって、先月入った新人も、やっと、独り立ちしましたし。

 私のおかげでね。

「……チッ」

 初めて店長の舌打ちを聞いた。

 視線を宙に向けた店長が、焦点を失ったように呆けた表情をする。

 今まで感じたことない、得体の知れない空気が漂う。

 んっ、なんだ?

 見てはいけないものを、見させられている気がして、

「店長?」

 たまらず声をかけるが。

 …………………………

 変な間が空いて、

「……そうか、じゃあ、もう、食べちゃってもいいよね?」

 少し残念そうに、こっちを向いた。



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