第2話 卵泥棒

 私達はクレアさんにクエストを受理してもらった。

 本当はもう少し上のランクのクエストらしいけど、私達のことを高く評価してくれていたからこそ、特別に受けさせてもらえた。


「でもよかったね、フェルル」

「うん。余った卵は貰っていいんだって」

「いやいや、そこじゃないから」


 私は手を横に振る。


「えっ?だってコカトリスの卵だよ。プリンにしたらしつこくない甘味で、顔がとろけそうになるし、スクランブルエッグにしたら、プルプルすぎてほっぺが落ちるんだよ」

「そうじゃなくて、受けさせて貰えたことだよ」

「ああ、それね」

「それなじゃない!」


 私はしばらくぶりに、フェルルに抗議した。

 この凄さがわかってないみたいだ。でもでも、フェルルの話を聞いてたら、私もその卵が食べてみたくなった。


「まあいいや。でも、もし余分に手に入ったら、持って帰ってミフユさんに調理してもらおうね」

「さんせーい!」


 フェルルがバンザイする。

 見れば口元からよだれが垂れていた。もしかしたら私もと思い、口元をくのでした。



「ねぇフェルル、この辺りだよね?」

「うん。そのはずだよ」


 私とフェルルはコカトリスの目撃例があったところにやって来た。

 ただの森の中なのに、さっきからビシバシ感じる気配に釣られないようにと、気を引き締めた。


「もしかして、他にも狙っている人がいるのかな?」

「その可能性は十分あるよ。でも、私達が負けるわけないけどね」


 そんなフェルルは頼もしかった。

 だから私もかなりの余裕よゆうを、持つことが出来た。

 そんな時だった。


 バササッサァー!


 私達の真上を何かが横切る。

 その影が私達を包み込んで、一瞬太陽の光を遮った。


「なに!?」

「師匠、あれだよ。コカトリス!」

「えっ、あれなの!?」


 私はフェルルの言うコカトリスが飛んで行った方を睨んだ。

 多分向こうに巣があるんだ。ってことは、早くしないといけないね。


「行こう、フェルル」

「うん」


 私とフェルルは走った。

 森を抜け、辿り着いたのは草木が生えていない地面だった。


「うわぁ!」


 その瞬間、私は何かをかけられた。

 頭からネトネトする液体が垂れてくる。指に絡めてみると、紫色をしていて、毒々どくどくしい色をしている。


「もしかして、これが毒?」

「師匠大丈夫!」

「うん。でも、気持ち悪いよ」


 私は指に絡みついた、毒を指先で伸ばしたりしてみる。

 汚いし、気持ち悪い。そんなものをぶっかけられて、冷静にはいかない。

 私は視線を変えると、そこにいるモンスターを睨みつけた。巨大な鶏だ。


「絶対に許さないからね!行くよ、フェルル!」

「せーのっ!」


 私がフェルルにそう言う前に、フェルルは剣を引き抜き、ズバッ!とコカトリスに斬り掛かっていた。

 しかもコカトリスが反応する前に次の一撃、横薙ぎを繰り出していた。


「そりゃあ!」


 コカトリスの腹に、フェルルの剣が炸裂さくれつした。

 するとコカトリスは後ろに思いっきり吹っ飛び、そのまま動かなくなる。


「師匠、倒したよ」

「倒したよって。早すぎるでしょ!」


 私は驚きのあまり、本音ほんねへた。

 しかし肝心かんじんのフェルルは「ほえっ?」とポカンとしている。

 私はそんなフェルルを怒るでもなく、めるでもなく、


「あははははっ。か、帰ろっか」

「うん。卵を持ってね」


 ただただ、苦笑いするだけでした。

 騎士で勇者なフェルルのとんでもない実力を目の当たりして、私は呆然ぼうぜんと立ち尽くしているだけでした。

 

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