リア充に滅亡の光あれ

冬城ひすい

クスッと笑える物語

4Kテレビ画面に二体のキャラクターが映し出されている。

今、友達の京也きょうやとプレイしようとしているゲームは大人気タイトルの『大激闘クラッシュシスターズ』だ。

先に言っておく。

決してエロゲではない。

エロゲではない!


内容としては計30体を超えるキャラから1プレイヤーにつき1キャラを選択して戦うゲームだ。


まことが使うキャラって黒髪碧眼の奴が多いよな……。もしかして俺の妹に興味あるのか?」

「んなわけあるか! オレが興味あるのは月華げっかちゃんだけだ! 目元はスッと通っていて、形のいい鼻に、薄い唇。ツンとした態度に時折見せる甘い表情! あと胸胸胸胸む――」

「お前が胸を最重要視してるのは分かったわ。とりま、お前の推しキャラの月華とオレの推しキャラの春姫はるひとの対決だな」


オレ達はGOボタンを押し、画面の中でカウントダウンが始まる。


5、4、3、2、1――


「誠くーん! 入ってもいーい?」


扉の前からそんな声が聞こえてくる。

この声は紛れもなく、京也の妹の秋帆あきほちゃんだ。

そこで瞬時に脳内演算が行われる。


今のこの状況。

ペットボトル飲料は転がしっぱなし。

何気に部屋が暑かったので、上着は全脱ぎして半そでシャツに短パン一丁。

何より今日は髭を剃ってきていない。


「てめえ、京也!! 秋帆ちゃんは一日いねえって言ってたじゃねえか!」

「あ、すまん。勘違いだったわ。うっし、1キルゲット」

「あ、おい! クソ!!」


よそ見しているうちにオレの推しキャラ・月華ちゃんが顔面にグーパンを決められて場外にすっ飛んでいった。


もうこの際だ。

秋帆ちゃんに嫌われても構わない!

ごほん、と咳払いをする。


「秋帆ちゃん、いいよ」

「きもっ」


オレは横にいる京也から飛んできた野次に小突いておく。

そのおかげか、京也の推しキャラ・春姫がバックドロップを決められて場外に飛んで行った。


よし!

これで1対1のイーブンや!


「お邪魔しまーす! もう、お兄ちゃん! 誠くんが来てるならそう言ってくれればよかったのに……! こんにちは、誠くん。いつもお兄ちゃんがお世話になってます」


ぺこりと可愛らしく頭を下げる秋帆ちゃんに視線が釘付けだ。


「なあ、ちょっと画面見てくれ」

「ん? なんだよ――!?」


なんと一時停止コマンドが入力され、月華ちゃんの下着が見えるアングルで画面が固定されていた。


「ちょ、お兄ちゃんたち何やってんの!?」


それに気づいた秋帆ちゃんは顔を赤らめて視線を逸らす。

ゲームに疎い秋帆ちゃんはきっとやばいゲームのやばいプレイをしていると勘違いしているのだ。


「こっこれは違うんだ! おい京也! 勘違いさせるようなところで止めるなよ!」

「了解。ぽちっとな」

「あああああああああああああああああ!!」


月華ちゃんが春姫に顔面を往復ビンタされ、画面に張り付いて場外に落ちていった。


「京也ぁぁぁぁあああ! 月華ちゃんを――いやそうじゃない。秋帆ちゃん、これは『大激闘クラッシュシスターズ』というゲームで――」

「誠くんがこんな人だったなんて知らなかった……。ごめん、席外すね」

「あああああああああああああああああ!!」


片思いといえ、秋帆ちゃんの笑顔が遠くなっていく。

まるで地面を這い進む芋虫を見るがごときハイライトのない瞳で一瞥され、彼女が去っていく。


「てめえ、京也! オレとお前の友好関係はもう終わりだあ! このっこのっ!」


強打コマンドを入力し続け、春姫にダメージが蓄積されていく。

こうなればやけくそだ。

現実の恋愛で勝てずとも、画面越しの二次元世界ではオレが勝つ!


「はい、カウンター」

「のおおおおおおおおおお!!」


最大の右フックがカウンター技によって反射され、月華ちゃんが吹き飛びゲームが終了した。

画面内では春姫がこちらに手を振っている。

それに対し京也は淡々と手を振り返していた。


「お前は昔からそうだよな! 頭もよくて運動もできて顔もよくて、欠点なし! 淡々と物事をこなしていくクール野郎!」

「いや誠にはかなわないさ。テストで平均点、運動も平均点、顔も平均点。黙々と物事に取り組むも凡才の域を出ない凡人男子高校生。俺には到底真似できないさ」

「バルス」


某有名アニメ映画の滅びの呪文を口走っても効果はなかった。

なぜだ。なぜ勝てない。


「でもな、俺は誠のことを尊敬してるんだ。小さい頃からお前は俺の妹の秋帆しか見てこなかった。平凡なお前だが目移りしない意志の固さとひたむきさがある。俺はその分野においては誠に勝てないさ」

「ぴえん」


急に褒めるなよ……。

オレは二次元に彼女は数多く。

だが三次元では京也の妹・秋帆ちゃんから一切の目移りはしないのだ。


「だからさ、これから俺がお前を全力で目移りさせてやる。安心しろ」

「ああ、やっぱりお前は親友だ――ん? 目移りさせるって言ったか今?」

「ああ、大事な妹をおいそれと渡せない。たとえそれが俺の親友の誠でもな。誠って名前に覚えはないか?」


ふむ、思えば最低最悪の誠という屑キャラがいたような……。


「二股どころか三股四股も支援するからな」


語尾にキラキラの顔文字が付きそうなほどに清々しい笑顔で言うのだった。

シスコン、恐るべし。

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