◆ 20・逃げるが勝ちって言葉はマジっすか? ◆


「でも、旦那たちどうする気っすか? アレで水はプライド高いから絶対殺したいリストに入れられてるし」


 甲冑の男――傍観者は言う。


「何、仲間みたいな顔してんだ。お前、関わったら殺すって言ったよな?」

「いやいや『終わっとけ』ですよ!」

「それ、殺すの意味だわ」


 傍観者は黙り込む。ドミティアが鼻息も荒く駆け込んでくる。


「よし、次はボクの番だな?! さぁ戦おう!」


 協定すら忘れていると見える。

 文句の一つも口に出そうとした時、ふらりと隣の金色が揺れる。咄嗟とっさに手を伸ばし、支えるも、羽根のような軽さが腕に倒れ込んだ。


「アーラ……!」


 意識がない体はクタリとしている。

 馬鹿にしたように肩を竦めるドミティア。


「ほらな? 地上の天使はひと月と言ったが、実際はそれより早くこの様だ」

「……どういう意味だ?」


 押し殺した声で聴けば、彼女ではなくランドールが言葉を引き継いだ。


「天使や悪魔は高次元生物でね。人間のように食事もいらないし老化も死もなければ病気もないんだ。まぁ、存在自体おとぎ話の産物になりつつあるし、私も神官でなければここまで知らなかったろうしね」

「つまり?」


 急かすように問えば、またもドミティアは呆れたような声をあげる。


「はぁ。ま、つまりだ。高次元生物共は魔法そのものみたいな物だ。エネルギー体と言ってもいい。エネルギー体が消耗すれば同質量のエネルギーを取る。つまり互いが捕食の関係性ってわけさ」

「捕食? 共食ともぐいって事か?」

「そうとも言える。十三体の魔王が天使を食って魔王となった話は有名だろう?」


 ルーファとて知っているおとぎ話だ。

 十三匹の悪魔が手を組み、天界に攻め上り、天使と戦う話だ。結果は悪魔側が十三人の天使を倒し、類稀たぐいまれなる力を手にするも、天使の長一人に負けて獄界に落とされるのだ。彼らはそれでも獄界では魔王と称されるのだが――。

 先ほど水の魔王と相対しなければおとぎ話のままだったろう。


「実際は喰ったって話さ。天使も悪魔も無限の命を手にしている。殺した、倒したってのは、取り込んだって意味になるそうだ。天と獄の狭間にあるこの地上に天使がいるってのは」


 最後まで誘導されずとも分かる。

 狩場にいるウサギにも等しい。地上の天使は獄界の生物にとって狩り放題ということになる。

 同じ属性を注ぎ込めば良いのだとサー・ランドールが光魔法を付与する。



 どうする、もう嫌われ覚悟で……。



 彼女がパチリと目を開ける。青い瞳は澄み渡った空の色だ。目が合った瞬間、ルーファは背を向けて走り出した。


「おいっ!?」


 ドミティアの怒鳴りが背を打つが止まるつもりはない。

 神官であるサー・ランドールが傍にいるのだ。神に仕える者として天使を守り抜くだろう。ドミティアは共闘の話がある手前、こちらを追ってくるかもしれないが、女嫌いのランドールと共に行動するとは思えなかった。



 アーラを守る為だ……! たとえ卑怯でも構わねぇ。今は……アーラと距離を取るっ。だから、……天界に帰ってくれ!!!!


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