◆ 12・セイジョってナニモノだよ!? ◆


 サー・ランドールの声は一歩遅かった。

 すでに相手は踏み込んでいる。彼女の手には抜き身の細い剣。

 軸足を起点に細身の剣から放たれる突き。



 早いっ。



 バックステップで避けながら、相手を観察する。二度三度と放つ突きは鋭いながらも軽い。

 ランドールの言葉を信じるなら、彼女のパワーは男のソレに匹敵する事になる。

 剣を水平に構え、ルーファも突きを繰り出す。

 互いの剣の切っ先がぶつかり合い高い音を立てる。

 カンカンカンと小気味良いほどに、リズミカルに響く。



 力、じゃねぇ……受け流してやがる。



 身体の芯ごと左右に展開し、攻めてくる小柄な体には打撃すらも遠い。


「〈 フォティア炎よトゥリー槍と成せ 〉」


 ルーファは片手で剣を、片手で炎の槍を作り出す。


「ハッ、炎か、面白いっ!! やってみろ!」

「〈 エィクィリーシィ! 〉」


 彼女に向けて放つ槍は、接触と同時に激しい業火として燃え上がる。

 炎に包まれた女を前にも、ルーファの戦意は衰えず、その首に目掛けて剣を繰り出す。


「うっわ」


 ランドールの呆れた声。

 炎ごと宙返りし、迫る剣を避けた女が笑う。

 響く哄笑。


「ハーハッハッハ!!!! 全く効かんわっ。〈 ネロー水よトゥシー雫と成せ・プロィシー 〉」


 己に水呪文を唱え、彼女は湯気を立てながら生還した。



 成程、普通じゃねぇな。



 ルーファは再度相手を見る。

 確かに小柄というには線が細い、男女の区別を見誤ったのは女というには幼いせいかもしれない。

 一瞬即発の雰囲気に割って入ったのはアーラだった。二人の間に立ち、攻撃的な女に声をかける。


「どうしてタタカうの?! あなたセイジョなのに」


 アーラの言葉に衝撃が走る。



 セイジョ? え? いや、それ『あなたセイジョなのに』って事は、セイジョってのは物じゃなくてコイツになるよな? セイジョって名前だったのか。

 生きてなくて死なない物が『セイジョ』で、つまり、普通の人間に見えるが、実は人間じゃねぇって事だな。概念がいねんが分からねぇ。

 サーは悪魔とも言ってたし、普通の人間に見えるが……アレらは比喩じゃねぇのか?

 つまりコイツをるにはどうすりゃいいんだ?



「セイジョ? なんだソレは。ボクはその男共を倒して勇者になるんだ!」

「いや、待て、勇者は俺様がなる」


 天使アーラを嫁にする条件=勇者と思い込んでいるルーファには譲れないことだ。その為なら、相手が誰でも戦える。



 セイジョの力で能力底上げ云々うんぬんってのは俺様の方針的に迷惑極まりねぇ。それにアーラ選抜に関しても勇者って立ち位置は譲れねぇ。

 そしてこれは向こうからのアーラをけた勝負の申し込みだ。



「いいぜ、続けようじゃねぇの」


 勇者の可能性がある人物ならば、今のうちに消しておくべきだ。ルーファは、空いた手で鞘をも手に取った。

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