◆ 11・戦う理由 ◆
「〈 アエーラス・ズレパーニ 〉」
その声は低く厳かに響く。
聞こえたと知覚した瞬間に、ルーファは振り返る。天使を肩に担ぎ上げ、両手を突き出し叫んだ。
「〈
黒い球――それは闇のカーテンのように敵との間に広がる。
一つの呼吸の差。
相手の術が完成する。
「〈 ディエスシーゾ! 〉」
暴風が鎌のように周囲を切り裂きながら向かってくる。
摩擦音すらなく、少しずつ闇は鎌を解かしていく。
なんで、時間かかって……っ!?
体感にして三秒は要してどちらの魔法も消え去る。静まった世界に『彼』が降り立った。
天使の落下とは違う優雅にして緩慢な着地。
波打つ金髪、青い目をした小柄な男だ。身長も年もアーラと同じくらいだろう。彼は仏頂面で、宣言した。
「ボクと戦え!」
ルーファには戦う理由がないので、彼の言葉はサー・ランドールに向けられたものだろうと顔を向ける。
こちらは木の陰に隠れていた。
「イヤだ! 私はそもそも戦いたくないんだよ!!」
「サー・ランドール、それでも勇者か! 男か!」
追ってきた人物が怒鳴りつける。
「お願いだから、見逃してよっ。私は神に仕える神官だよ!? 無益な争いなんてしたくないんだよ!」
「情けないっ」
怒鳴り合う二人を観察し、ルーファは肩に担ぎ上げていたアーラを下ろした。こんな所は一刻も早く去るべきだ。
「ごめんな。苦しくなかったか? 大丈夫そうなら行こうか」
「うん、大丈夫だけど……ルフス、あの子と」
「アーラ、あの二人は取り込み中みたいだし、邪魔するのは良くないと思うんだよな、俺様」
純真無垢な天使は二人を見つめ、小さく頷いた。
「じゃあ……待つ?」
「他の町でな! 他の町で……待ちたいな、みたいな」
アーラが頷くより早く、小柄な男がルーファに剣を突きつける。
「戦え、ってのはお前も入っている。ボクの魔法を防いだんだ、見込みがあるぞ」
凶悪に笑う様は悪魔と
「そうそう! その子ね、めっちゃ強い!! ミンター君って言って次代の勇者っていうか、むしろ私、負けたからね!! さっき負けたの、秒殺だった!!」
平然と負けた発言をする年上の男に舌打ちする。恐らく『セイジョ』を持っているのだろう。いくら危険物を所持した相手とは言え、その逃げ口上はあまりに情けない。
ルーファの視線を受けても、平気で親指を立てている。
「ほう、ますます面白いじゃないか。腰抜けでない証明に戦っていけ、自称勇者」
「あ、ミンター君、一応の忠告!! その子、女の子だから!!」
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