◆ 10・悪魔がやってくる ◆


 セイジョは悪魔。

 その意味は二通り考えられた。一つは天使語の翻訳、もう一つは比喩だ。


 悪魔とは十三の魔王軍麾下きかに所属する先兵を総称する。地の底にある獄界より、世界のことわりをゆがめようとしている存在だ。

 彼らは人間の目減らしに度々たびたびモンスターを送り込んでくる。モンスターの駆逐は世界にとって重要であり、それらの事業を引き受けるのが冒険者組合だった。



 アーラの話じゃ『セイジョ』ってのは、生きても死んでもない、まさに『物』なんだよなぁ。セイジョが悪魔ってなると、生き物になっちまうから天使ちゃん語じゃねぇな。

 比喩にしても『殺される』ってのは納得がいかねぇな。



 アーラの視線に、ふと質問に答えていなかったことを思い出す。天使には殺されるという概念はないらしいと、心のメモ書きにしるすルーファ。


「あー、殺されるってのは『いなくなる』って事だな。その、まぁ、無理やり?」

「頼むから、私を無視しないでくれ! 本当に切羽詰まってるんだよっ、こうみえて!」


 怒鳴る男に、顔をしかめる。

 だが、先ほどのモンスター出現から、駆け付けるまでの時間を考えるにサー・ランドールの力は本物だった。


「サー・ランドール。一応聞くが、セイジョってのは置いてきたんだろ? 何をそんなに慌ててんだ?」


 アーラが指さしたセイジョの在り処ありかは遠い。どれほどの脅威きょういだろうと、近くにはないのだ。


「ばか! セイジョがどれだけ凄いと思ってんだっ、アレは飛んででも来るぞ!! 焼いても凍らせても秒で復活するし! 私より力あるし!!!! むしろ常に最大火力だし!!!!」


 ますますセイジョの謎が深まるルーファだ。しかしアーラは頷いた。


「行かなくても来てくれそう」

「え? 来て? くれる??」


 ルーファは繰り返し、サー・ランドールは固まった。


「うん、もうちょっとだよっ」


 アーラが嬉しそうであるのは良いことで、可愛らしくもある。



 待て待て待て!!!! セイジョ見つけたら、さよならコースだったよな?! いやいやいや、しかもサーが勝てない相手?! とりま敵の内実ないじつ分かるまでは逃げるだろ!!!!



 アーラを抱き上げると、ルーファは駆けだした。同時にサー・ランドールも追いかけてくる。


「いや、おっさん、来んなよ!!!!」

「いいいいやだっ! アレは君に引き継いで、私は生き延びるんだ!!!!」


 さきほど通ったばかりの入口から村を出て、アーラの為に作った路を逆走していく。



 ともかく、隣町だ。あそこはかなりデカい町だから、人みにまぎれれば!



 だが無情な天使の声。


「あ、セイジョ」


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