◆ 13・天上の生き物 ◆


 殺す気も新たに、ルーファは剣と鞘を構えている。


「待って、ルフス! カノジョはセイジョなの! あなた、えっとドィ……イア? あぅ、ヒトのナマエ、ダメ、あぅ、難しい……タタカウの、止めてっ」


 ポンと音を立てて、彼女の背に翼が戻る。

 それはマント越しでも主張された膨らみであり、覗いてもいる。



 あ、やべぇ!



 ハッとしたルーファは慌てて二人の人間を見る。彼と彼女は小さな翼にポカンと口を開ける。

 すぐに反応したのはサー・ランドールだ。

 木陰からまろぶように飛び出し、アーラの前にひざまく。


「地上への『お渡り』お待ちしておりました、天使様。私はフォルテス・ランドールと申します。あなた様とあなた様に並び立たれる方々、そして高きにおわす方々を等しく信奉したてまつ敬虔けいけんなる信徒。手足のごとくお仕え致しますので何なりとお申し付けくださいませ」


 神官は伊達だてではない所作しょさ口上こうじょうに内心驚く。セイジョの方は不機嫌そうに眉をひそめた。

 最悪の反応ではなかったと、ルーファは息を吐く。


「なるほど、天使か。どうりで魔法が扱い辛いと思った」


 セイジョの言葉に、首を傾げる。


「どういう意味だ?」

「はっ、ミンターとか言ったか。貴様勇者を目指す割に知らんのか? 天使降臨時、その場は天使領域となる。基本は光属性以外の低減だ。特に闇は顕著けんちょだ。先ほどボクの攻撃を防いだ闇魔法、いつもと違わなかったか?」


 言われてみれば、いつもより闇の量が少なく発動時間も短かったのを思い出す。


「あぁ、そういや……」

「そういう事だ。他の魔法よりも光に対する闇は、相性が悪いからな」


 アーラは戸惑ったようにランドールを見下ろしていたが、やがて首を振って何事か言っている。


「まぁ、それも長い事ではないさ。天使は所詮しょせん、天上の生き物だ。地上の瘴気しょうきに耐え切れず溶けるか、ガタが来れば天に帰るだろう」

「え」


 セイジョの言葉は衝撃だった。


「溶ける、のか?」

「その前に帰るだろ。さぁ、ボクたちは戦うぞ!」


 勢いも新たに構えるセイジョだが、ルーファには最早やる気など欠片もない。

 天使や悪魔の話は通説程度の知識しかないのだ。こうしてアーラに逢わなければ、存在すらも夢物語で終わらせていたかもしれない。


「セイジョっつったか、あんた」

「ボクはドミティアだが?」

「ドミティア、天使はどれくらい地上で耐えられるんだ?」


 彼女は逡巡しゅんじゅんし、答えた。


「文献を信じるなら、ひと月だな」


 加えて追加をする。


「もっとも、様々な要因でそんなに持つケースの方が珍しいかもな?」

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