◆ 14・お帰りください ◆


 サー・ランドールに「顔をあげて」と頼むアーラを見遣る。

 彼女は確かに天使だ。

 根本的に人間とは相容あいいれない物を持っている。それはルーファでなくとも分かる事だった。



 ひと月しか……ってか、そこで溶けるってんなら実際はもっと短いだろ! 様々な要因って??

 むしろ他の天使がどれほどのものか知らねぇが、ウチの天使ちゃんほど清浄なわけもねぇ!

 アーラ、何時間持つ!?



 チラリと天使を見れば、それだけで昇天しそうなほどの可愛らしさにルーファは膝をつく。



 やべぇ……、アーラの命が危険だっ。帰す、そうだ……帰すしかねぇ! 別に永遠に会えないわけでもねぇし、こっちから逢いに行けばいいんだし?! アーラには代えられねぇ。

 早急に……帰ってもらうっ。



 アーラが地上に来た理由は、勇者だ。セイジョと会うまではおまもりになってくれると言っていたのだから、今しがた本懐ほんかいげたと言える。

 ルーファは顔を上げ、セイジョ・ドミティアを見もせずに声をかけた。


「おい、セイジョ・ドミティア。手を組もうぜ」

「名前はドミティアで、立ち位置が『聖なる乙女』こと略して『聖女』だ。だがボクは断っているので、可笑しな二つ名を付けるな」


 セイジョの謎は解けたがルーファにとっての問題はもう移っているのだ。


「それと勿論、手を組む気はない。ボクは聖女じゃなく勇者になりたいんだ。お前とは敵同士、よって戦ってもらおうか!」


 自分ルールを押し付けてくるドミティアにルーファは提案する。


「だからだ。お前の話じゃ天使がいると場が荒れる。勇者ともあろう者が、戦う場を整えるってのも変な話だが、どちらの腕が上かを判別する試合みたいなものをしたいんだろ、お前。だったら公平な場で決するべきだろ」

「つまり?」

「つまり、天使にはお帰り頂いて、公平な場を整えればいいだろ」


 ドミティアはよほど戦いたいのか、あっさり頷いた。


「ミンター、そういうからには戦うんだな? で、交換条件はなんだ?」


 アーラは心が見える。すでにルーファはセイジョの効果を拒否し独力どくりょくでやるのだと伝えてしまっている。


「俺様たちは今から仲間だ。十三体の魔王討伐をする名目で手を組んだ。地上の闇を払う同志、これでどうだ?」


 ドミティアが低く笑う。


「大きく出たな。十三体の魔王だと? そんな事を誰が信じる。まぁ不足はないがな」

「じゃ契約成立って事で。あ、お前と戦うのはアーラを天上に帰してからだ。心配や誤解をさせたくねぇ」

「なら、さっさと帰すんだな」


 事情は先刻承知らしく、彼女はまた笑った。天使の生体をルーファよりも知っているのだから当然だろう。

 彼女はアーラに視線をやる。


「だが、天使は人の心を見通す。そう、うまくいくか?」


 ルーファには分かっている。

 確かに天使は人の心が見える。ドミティアの言うように見通すと言えるだろう。然し実態は『天使』であるが故に『分からない』のだ。

 アーラにどれほどルーファの心が見えていたとしても、その意味までは伝わっていないと踏んでいる。

 彼女の様子を見ていればわかることだ。


 天使は人の機微きびが分からない。もしくは理解が及ばないのだ。


「天使は呪いはするがたたりはしない。いっそ気味が悪いといえばいい。東方にそんな逸話が……」

「それ言ったら、お前を殺す。方法は問わない」


 ぴしゃりと言い切れば本気を感じたのか、彼女は口をつぐんだ。

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