◆ 3・方向性としては勇者になる ◆
「ダメ……お願い」
天使の声に、甲冑を締め上げていたルーファの手は緩まない。
「ソレ、そのヒト、ヒトなの! テァ・フィーィス、え、と、えーっと、ぼう、見る、ヒト! かんそく、みる、チョーサ、みる! 間違い、止める、ヒト」
天使が羅列する言葉は悪い物ではなさそうだ。だが、手を放した瞬間に、天使に危害を及ぼす可能性は否めない。
ゼロでない限りは手を緩める気はなかった。
「大丈夫、テァ・フィーィス、お願い、守るヒト……っ」
必死で言葉を紡ぐ天使に、ルーファは手を緩め鞘を外した。
地面に這いつくばり、甲冑越しに激しくせき込む男を見下ろす。時間にしてギリギリだろう。意識を飛ばす所まで締め上げても良かったが、まだ聞きたい事はある。加えて、痛みというものは意識があってこそ効果を増すのだ。
「なぁあんた、俺様は言葉遊びする気はねぇんだ。何者だ? 人外の相手は骨が折れるが
ルーファの声は硬質で落ち着いていた。
「で、どこの誰だって? 言葉には気をつけろ。天使ちゃんの手前、非道な事をする気はないが、思ってるほど気長でもないんだ」
仰向けになり、呼吸を整えた男が答える。
「オ、レは……っ、ボウカン、シャだっ」
「傍観者?」
「そ、ぅだ……三界のっ、均衡、保つんだっ」
「ルフス、そのヒト、テァ・フィーィス、見てるヒト。ヒトの生が終わって、役目受けてなるの。だからヒト」
二人の発言を総合すれば、甲冑男が人間だという事は分かる。たが、肝心な部分が分からない。
「なんで天使ちゃんを狙った?」
「狙ってねぇよ!」
男が叫ぶ。
途端、ルーファの足が喉を踏みつける。うめき声が上がる。
「言ったろ? 言葉には気をつけろ。嘘はペナルティとなる」
そうしてルーファは足をのけた。またもせき込み、荒い息を繰り返す男。
「天使ちゃん、狙ったよな?」
「……っ、……つれ、もどそうと、しただけだっ。攻撃じゃない!」
焦ったように付け加えられた言葉と、見た事を思い出してルーファは頷いた。
確かに、アレが攻撃と感じたのは俺様の早とちりだったか? だが
天使の娘がルーファの腕を
「戻らない、ここで、ユーシャのお手伝いするの」
掴まれた腕を見て、顔が緩みそうになる。天使はルーファと居たがってくれているのだ。
そうだったわ、俺様『勇者』になるんだった!!!! 敵か味方かじゃねぇわ、大事なのは悪か善か、だな?
地面にいる黒い塊を処理よりも、すべき事がルーファにはあった。
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