◆ 18・ウチの流派は廃れてる ◆


「また、大言たいげんにして壮語そうごな事を。死んでいった人間の数を知りたいのか?」


 魔王は余裕を崩さず笑った。そして「先攻は譲ろう」と告げたのが合図だ。


「〈 スコターディ闇よ 〉」

「闇、か。俺の水を吸収して分解でもしようと思ってるなら愚かな事だ」


 ルーファの周囲に集まる闇は未だ形を成さない。

 少年が杖を振るう。リンと甲高い音が響き、彼の周囲に水の帯が生まれる。駆けだすルーファ。


「〈 ペトゥラ土よ! 〉」


 水の帯は少年を守るように巻き付く。ルーファの鞘が帯を切り裂く。驚きに目を丸くした少年の頬に、続く二撃目の剣の一振るい。

 紙一重で避けた少年の頬がざっくりと裂ける。


「な、……に? なんだ? 今の」


 本当に分からないと少年が頬と鞘を目をやるも、すぐに追いつくルーファの声。


「スコターディ」


 闇を呼ぶ声。

 突き出された剣を避ける魔王の鼻先で剣をくるりと回す。同時に迫る肘に警戒するも、狙いは違わず横腹に叩きこんだ蹴りだ。


「こ、れ……スコ……のっ」


 何が起きたかを魔王も理解する。


「そうだぜ。俺様は魔法で戦う気はねぇよ。属性付与の肉弾戦、斬ったってどうせ戻るんだ。苦手な属性ガンりで死ぬまでボコす。勿論、斬らない宣言じゃねぇぞ? 剣先までにガッツリ盛るからな」

「お前、……狂ってるのかっ。属性付与など人間の精神力で何分持つか」


 魔法は属性と指向性と発射にて成り立つ中遠距離戦法が基本だ。

 属性を集め形として即射する理由としては、長らく体内に属性を留めることが、もともと光と闇の狭間に位置する人間の属性を狂わせるからだ。


「俺様んは一応古流こりゅう持っててな、今はほとんどいねぇ魔法闘士とうし系なんだよな」


 反応したのはランドールだ。


「魔法闘士?! え、ミンター君の家ヤバいっ」

「魔法戦士とどう違うんだ?」


 ドミティアの疑問は当然だ。実質、古流などそんなものだろうとルーファは思う。


「魔法戦士は魔法と戦士のどちらかに主軸を置いて、補助的にもう片方を使ってるパターンが多いけど。魔法闘士は肉体が武器っていうか……殴る蹴る斬る全部に魔法効果付与していくスタイルっていうか。……ほぼ肉弾戦というか……」


 年の功なのかランドールの知識は大体正しい。終盤が消え入るような声になっているのは、戦闘を申し込んだ過去でも後悔しているのだろう。神官にして魔法の方が得意な彼にとって、ルーファのようなタイプとの戦闘は骨が折れる作業だ。


「つまり、お前の魔力と俺様の体力、どっちが持つかだな? ちなみに俺様は七日くらいなら殴り合えるぞ」


 少年の顔が引きつる。ランドールの顔も引きつる。


「〈 ペトゥラ 〉」


 おしゃべりの時間は終わりだと、土の呪文を唱えた。

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