◆ 6・予言 ◆


 丸太の柵が壁を築いている。

 大きな木の門の上には見張り台があり、自治会のメンバーが入れ替わりで街道を注視している。

 町の入口だ。

 比較的小さな町ながら、安全を約束されているのは自治会の力による所が大きい。


 ルーファはハッとした。

 今後の展開を悩みながら、黙々と歩いていたが半刻はゆうに経っている。今後の展開を悩んでいるうちに時間を過ごしてしまったのだ。

 地上を歩きなれていない天使を心配してみれば、彼女は地面から少し浮いていた。



 え、いや、うん、天使ちゃん……だもんな?



 彼女は地に足をつけて立つ。


「ルフス、マチにはいっぱいヒトがいるのね? たくさんの声がする」

「お、おう」


 耳を澄ましてみても、何も聞こえない。



 天使ちゃんって耳がイイんだな。俺様なんにも聞こえねぇけど。



「手を、つないでていい?」

「もももも、もちろんですけどぉ?!?!」


 食い気味に答えたルーファの手を彼女が握る。



 そ、そうだよな。ワレワレ、未来の恋人だもんな!!!! え? つまり、これ、デート? デートでOK?!

 やべぇ、天使が天使すぎる。



 そこで、ふと彼女の背を見る。

 小さいながらも翼は隠せていない。


「アーラ、服、その、着替えたりとかOKか? 良ければ服を変えて欲しかったりします!」

「フク?」

「そうなんだ、今の天使ちゃん衣裳もめちゃくちゃ似合ってんだけど……その、今の天使ちゃん系の服は俺様がさらってきた系に見えてしまうというか……汚しちまったし、あ、金は気にしないでくれ! 俺様買うぜ!」

「カネ? カウ?」


 頭にたくさんのクエスチョンマークを浮かべたであろうアーラは、やがてコクリと頷いた。


「分からないこといっぱいね、ヒト世界。ルフス、お願いします」


 全てを任すという彼女の健気さにルーファはまたも空いた手で顔を覆った。



 俺様の未来の嫁が……可愛すぎて死ぬ!!!!

 絶対イヤな思いをさせねぇようにしてやろ……。



 実際、人は異端に厳しい生き物だ。彼女の翼は隠した方がいいとルーファは思っていた。

 彼自身は見た目を揶揄やゆされても立ち向かえる力と能力があったから、したたかに成長できたのだ。なければ、今のルーファは存在していないだろうと分かっている。

 それほど悪意というものは、足に絡みついて抜け出せない泥のようなものだ。


「任せろ! 天使ちゃんが最高に可愛く見える服を用意するぜ! ちなみに翼しまえたりとかするか?」


 できれば、アーラには悪意の理由すらも気付いてほしくないと、ルーファは願っている。

 彼女は口を開きかけ、何かを言おうとして閉じる。


「うん。長くは無理だけど、少しなら……しまえる」


 彼女はルーファに見せるように「ほら」と背中から翼を消してみせた。

 だが、すぐにその顔が強張こわばる。


「ルフス、ティラスだ。ティラスが……来るっ」


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