第5話 す、スチルをくださいっ!!
『ところでシズク殿……』
「あぁ、シズクでいいですよ。それにさっきもそう呼んでいたじゃないですか」
『いや、あれはその場の勢いというかなんというか……すまない』
ふふふ。出会ってからまだ間もないのに、私達は何回謝っているんだろう。
別に呼び捨てされたぐらい、ちっとも気にしてなんかいないのに。
そもそもあの時だって、私を一生懸命に励まそうとしてくれていたんだしね。
やっぱりリベルトさんは律儀なエルフだ。いや、ハーフのエルフなんだっけ?
『それで、もし可能であればバッハイム王国軍を……いや、第三師団だけでもいい。このまま継続して支援をお願いできないだろうか。もちろん、対価は国の方から出させてもらう。ノースシールズ皇国の方からもし望む物があれば、気兼ねなく言ってほしい』
おっと、そうきたか。
ノースシールズ皇国というのがどこかは分からないけれど、人間族の国ってことなのかな。私がその国の所属だと思っていたみたいだし。
しかし継続した支援かぁ……。
私だってできることなら、リベルトさんたちのことを支援してあげたいんだけれど――
「申し訳ありませんが、そう簡単に了承することはできません」
私はこの“聖女×英雄コネクト”がただのゲームだとも、ましてや自分が何か特別な力に目覚めたとも思っていない。あくまで偶然にもスマホのアプリが異世界に繋がっちゃっただけ。
たしかにアプリのシステムを使えば強力な支援ができるかもしれない。だけど私が今回の戦いみたいにゲーム感覚で誰かの生き死にを左右するだなんて、とてもじゃないけどできない。そんな重大な責任を背負えるほどメンタルも強くないしね。
だから私はキチンと自分の考えをリベルトさんに伝えることにした。
「お送り可能な物資にも限りがあります。また、私にも仕事がありますので時間の都合もあります」
『うむ。それは当然そうだな』
「なのでその都度、ご相談をさせていただいた上で支援をする。そんな条件で良かったら……」
ゲームのことを誤魔化すとしたらこんな感じかな?
それに送れるのはガチャ次第だし、仕事があるのは本当のことだしね。
『本当か……是非、それでお願いさせてくれ!! シズクが居てくれれば百人力……いや、一個師団力だ!!』
「あはは、軍隊並ってことですか。それほどじゃないですよ。あんまり期待はしないでくださいね?」
私一人じゃさすがにそこまでの力は無い。
……でも、こんな誰かに頼られて喜ばれるって初めてだなぁ。仕事はいくら頑張ったって、給料をもらっているんだからやって当たり前。そんな世界だったからね。
『それで……報酬の件なのだが……』
あっ、そのことをすっかり忘れてた。
でも報酬って言われても私が彼らから受け取れる物なんてあるのかしら。支援物資だってアプリのシステムなんだし。
「うーん……報酬かぁ」
考えてみてもパッと思い付かない。悩む私を見て、リベルトさんは不安そうな顔をしている。戦闘中は怖いくらいに凛々しかったのに、こうしてみると愛嬌があって可愛い。叱られた仔犬みたいだ。
……あ、そうだ。
「それならスチルをください!!」
『――すち、る?』
◇
「んー、やっぱりイケメンの写真は癒されるわね!! しかもポージングは私次第! 最高じゃないのっ!!」
私は写真フォルダに並ぶイケメンを眺めてホクホク顔をしていた。何をやらされたのか分からず、困惑しているリベルトさんはそっちのけである。
スチルとは言っても、このアプリにそういう機能があったわけじゃない。
リベルトさんには私が欲しい構図でポーズを取ってもらい、それを私がスマホのスクショで保存するだけの、なんちゃってスチルである。
ちなみにスチルとは、乙女ゲーとかで印象的なシーンに挿入される一枚絵のことだ。特定のシナリオを攻略しないとゲットできないレアなスチルが存在することもあって、コレクション要素として楽しむプレイヤーもいる。
『……シズク? 本当にこんなことで良いのか?』
「はい!! あ、剣を持って動いてもらってもいいですか? 今度は動画を撮りたいので!!」
『ドウガ? こ、こうか……?』
「もうちょっと自然な感じで! 笑顔も忘れないで!!」
うひひひひっ!! 眼福ッッ!!
私だけの特別なスチル! しかも動画もオッケー!!
好きな時に好きなリベルトさんを撮影できるなんて、思わず涎が出てしまう。
『まぁ、あのミスリルの剣やマジックオーブに比べたら安いものだが……』
「ふへへ、それはこっちのセリフなのですよ……」
こんなのコスプレイヤーさん雇って個人撮影なんて依頼したら何万円……いや、このレベルのモデルなら二桁万円を超えるからねっ!
正直、多少の課金ぐらいなら簡単に元が取れてしまう。
ちなみにちゃんと支援の方法は調べた。アイテムをゲットするためには、やっぱりガチャが必要だった。
そのガチャも一〇連で三〇〇〇円とちょっとお高めだったけれど、それぐらいで人の命を救えると考えれば安いものだ。私の中では募金や慈善活動と同じカテゴリーだしね。
だから私は一ヶ月に三万円という上限を決めた。つまり全部で一〇〇連だ。
しかし直接アイテムを購入できないのは私も心が苦しいなぁ。このガチャがリベルトさんたちを救う切り札になることを祈る。
ただまぁ……それって同時に、魔族を殺すことにも繋がるんだよね。つまりは私の行動で、生き物の命を奪うということだ。
だから私はリベルトさんに、そちらの世界がどうなっているのかちゃんと訊ねることにした。
その話をする上で、まずは私が自分の事を正直に話そう。簡単には信じてもらえないかもしれないけれど、これが私なりの誠意だ。
――と、思ったんだけど。
『いや、実はシズクがノースシールズ皇国……人間族の国の者ではないんじゃないかと、薄々は感じていたんだ』
えっ、そうだったの!?
でもどうしてバレちゃったんだろう。なにかボロが出ていたかしら?
そのことについて聞けば、リベルトさんはあの魔道具をノースシールズの領土で偶然手に入れたらしい。だから私のことも最初はノースシールズの人間だと勘違いしたんだって。
『最近、かの国は魔道具の発展が著しくてな。なんでも有能な人間を軍に引き入れたらしい。だからてっきり、シズクもその魔道具関連の軍人かと思ったのだ』
たしかに入手元の国民と同じ人間族なら勘違いしてもおかしくはないよね。
『だがこういっては失礼に当たるのかもしれないが……シズクの顔はあまり、軍人らしくはないので……』
「ぶふぁ!? それってふぬけた顔をしているってことですか!?」
いや、たしかに私は民間人ですけどね!?
上司に文句ひとつ言えない豆腐メンタルな人間だし!
『いや、ふふっ……シズクの顔は、あまりにも可愛らしい。きっと平和で良い国に住んでいるのだろうな』
「――可愛いッ!? ま、まぁ……いちおう平和なのかな? 良い国かどうかは、私にはちょっと分かりませんが……」
どっかの国に侵略されて生活が脅かされるほどではないけれど、労働者にはあんまり優しくない国だからなぁ。
『その様子だと、シズクの国には魔族も居ないのだろう?』
「そうですね。怖い動物は居ますけれど、あんなモンスターは居ません。ところで、さっきからちょくちょく出ているその魔族って……いったいどんな種族なんですか?」
そろそろ本題に入ろう。
もしこれがただの種族間の戦争ならば、私は介入するつもりはない。
『魔族か……あれはシズクが言った通り、人ではなくモンスターだ。善の心は無いくせに、知恵は良く回る。そしてアイツらは――』
リベルトさんから笑顔が消えた。
画面越しからでも分かるぐらいに、彼から殺気が溢れていた。
『アイツらは、我らエルフにとってかけがえのない人物を奪ったんだ』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます