第4話 私の顔、見られてる!?
びっくりした。
てっきり私は、ゲームのAIがプレイヤーの言葉に反応して適当なセリフを流しているんだと思っていた。
だけど画面にいるリベルトというキャラは今、あたかも私の表情が見えているようなことを言った。
『ゲーム? キャラとはいったい……?』
本気で言っているようにしか聞こえない。ここまで作り込んでいるとしたら、相当優秀なAIを使っているに違いない。
「えっと、私のことが本当に見えているんですか?」
『なにを今更……私と同様、シズク殿も私が見えているのではないのか?』
なんてことなの……まさか本当に異世界と繋がっちゃてるってこと?
いや、もしそうだとしても確かめようがない。ゲーム会社に問い合わせ? 現実とゲームの違いが分からないイタイ女だって心配されるだけだわ。
「ちょ、ちょっとだけ待っていてくださいね?」
私は急いで画面を切り替え、インターネットで検索をかける。
「『聖女×英雄コネクト』……えっ、出てこない!? どうして!?」
別のなんとかコネクトってタイトルは出てくるけれど、私がプレイしているはずのゲームについては一切ヒットしなかった。
いくらリリースしたばかりだとはいえ、ここまで作り込まれたゲームの宣伝すら見付からないのはおかしい。そもそも私がプレイするキッカケになった広告すら消えていた。
「そんな……じゃあ、さっきの死体って全部ホンモノなの……?」
さぁっと頭が真っ白になる。あの人たち、私の目の前で死んだってこと?
ど、どうしよう……。
私がもたもたしなきゃ、助かった人はもっといたかもしれない、よね……?
スマホを持つ自分の手がガタガタと震えている。
なんで、どうして……私はただゲームで気分転換をしようと思っただけなのに……あ、謝らなきゃ……
『大丈夫か、シズク殿? どうした!? 顔が真っ白だぞ……!!』
「ご、ごめっ……ごめんなさっ……私が手間取ったせいで多くの方が……し、死んじゃっ……」
気付けば両目からはボロボロと涙がこぼれてきた。怖くて声まで震えている。こんなの、仕事でミスした時なんかと比べ物にならない。
『馬鹿なことを言わないでくれ! シズクのお陰でこんなにも多くの仲間たちが救われたんだぞ!』
「でも……!!」
『シズクのオーブが無ければ、間違いなく今以上の死傷者が出ていた! 見てくれ! 今も貴殿にもたらされた回復薬で、多くの者が救われている!』
そういってリベルトさんは魔道具を地面に並べられた人々に向けた。程度に差はあれど、誰もが傷を負っている。そこへ動ける兵士がやってきて、負傷者に次々とフラスコに入った青色の薬を飲ませたり振りかけたりしていた。
『あぁ、傷が塞がっていく!!』
『もう駄目かと思った……ありがとう、ありがとう!!』
液体が掛かった場所から、みるみるうちに傷が塞がっていく。中には息を吹き返した仲間に抱き着いて、泣きながら喜んでいる人までいる。
『我々は誰一人としてシズクを責めたりはしない。むしろ感謝の気持ちしかないんだ。軍を代表して礼を言わせてくれ。――私達を助けてくれてありがとう、シズク』
「リベルトさん……」
ペコリと頭を下げた後、リベルトさんは私に
その救援者が私だと分かると、兵士の皆は揃って“聖女様”だの“勝利の女神”だともてはやした。私は照れ臭くなって止めてほしいと言ったんだけど、リベルトさんは笑うだけで取り合ってくれなかった。
もちろん、あの回復薬でも助からなかった人もいた。
リベルトさんはそのことを誤魔化さなかった。たぶん、下手に嘘をついても私が傷付くって分かっていたから。
その代わり、リベルトさんは私を一度も悪く言うことは無かった。他のエルフのみんなも、それは同じだった。むしろ痛みだけでも和らげて逝かせてやれたと、みんなが感謝の言葉を投げかけてくれていた。
――ただ、一人を除いて。
『人間族の救援者ですと? 非常に怪しいですね。副官である私としては、
副官であるルークさんは魔道具に映る私を
『ここ最近、こちらの動きが敵にバレている事例が確認されています。魔族が何らかの方法で監視している可能性が捨てきれません』
暗にお前がそうなんじゃないのか、といった視線を送られた気がした。たしかに急に現れた私なんて怪しい人物の筆頭だ。
『ルークはシズクが魔族だというのか!?』
『彼女がもし本当に人間族だとしてもです。マジックオーブだって世界に数個しか現存しない、エルフの秘宝なんですよ? それをどうして人間族の一個人が所持しているのでしょうか』
え、あれってそんなに貴重な物だったの? 最高ランクのアイテムだし、それなりにレアなんだろうなー、とは思っていたけれど……。
『ルーク、貴様! シズクのお陰で今の私達が生き延びたということを忘れたのか!?』
おおっ、リベルトさんが
『私は副官としてあらゆる可能性を考慮しているだけです! もしリベルト様になにかあったら、私はっ……!!』
『ルーク。副官だからと言ったが、その発言は貴様の私情が一切ないと断言できるのか!?』
『――ッ!?』
上官の言葉に、ルークさんがハッとした表情になる。何か思い当たるフシがあるみたいだ。
『……出過ぎたことを言って、申し訳ありませんでした。少し、頭を冷やしてきます』
あらら。どっか行っちゃった。
私が下手に口を挟んでも、話がややこしくなっちゃうから敢えて黙っていたけれど……。
「リベルトさん。ルークさんは本当に、部隊のことを心配して言ってくれたんだと思いますよ?」
『……あぁ。分かっているさ。だがアイツは少し、俺に過保護すぎるんだよ』
「いいじゃないですか。随分と愛されているんですね?」
『ふふ。男に愛されても嬉しくはないがな』
――あれ?
リベルトさんって、ルークさんが女性だって気付いていないのかしら。
戦場で男と同じような鎧を見に纏っているから気付いていない?
それにルークさんがリベルトさんを心配しているのって、恋心があるからだと思う。
リベルトさんを見つめる時のルークさんの顔。アレって、何か特別なものを感じたんだけど。
命の危険が伴う戦場でお互いを信頼しているうちに……ってよくあるパターンじゃない?
『ルークは俺と違って純血だからな。俺みたいな
「ハーフ? あれ、リベルトさんってハーフエルフだったんですか?」
私にはその違いが分からなかった。だって同じような見た目だし、綺麗な顔だし。魔法も使っていたから、てっきり同じなのかと思っていた。
『あぁ。ルークの方が少し耳が長いだろう? それに俺が預かっている第三師団はアイツ以外、全員が人間族や獣人族とのハーフなんだ』
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