第3話 課金アイテムでエルフ無双
ピンチに陥ったエルフを救うため、私は無料の一〇連ガチャを回すことになった。
画面を埋め尽くしていた虹色のフラッシュが止んでいく。そこには一〇個の画像付きアイコンが表示されていた。
アイコンの枠は銅、銀、金、虹の四種類。それぞれの色で縁取られている。
これはおそらく、アイテムのランクによって色分けがされているパターンだわ。銅が一番下で、虹が一番上のランク。他のゲームでも良く見かける設定よね。
「出てきたのは銅が四つに、銀が三つ。金が二つで一番豪華そうな虹色が一つかぁ。まぁ初回は確定で最高ランクが出ることがあるし、今回は別に私の運は関係ないのかもしれないわね」
アイテムの中身はと言えば、銅ランクのパンや包帯といった雑貨から始まり。銀ランクでは木箱にビッシリと詰まった、ガラス製のフラスコ瓶があった。
瓶の中身は何かの薬アイテムかな?
更に上のランクには緻密なバラの装飾がされた剣や、エメラルドに似ている緑色の宝珠などがある。
ふむふむ、アイテムに統一性はあんまり無いみたいね。
「この中から支援するアイテムを三つ選んでください、か。うーん、アイテムの効果が分からないんだけど……よし、上のランクから適当に選んじゃおう!」
リベルトさんは今も私を待っている。あんまり迷っている暇はないわ。
『むっ、なんだ!? いきなりアイテムが現れたぞ!!』
アイテムセレクトが終わった瞬間。
宝箱と猫はパッと消え、画面にリベルトさんが帰ってきた。彼はちょうど、飛び込んできた二つ頭の犬を剣で真っ二つに切り伏せたところだった。
纏っている銀色の鎧は、さっきよりも増して血塗れになっている。一瞬ギョッとしちゃったけれど、どうやら彼のじゃなくって敵の返り血だったみたいだ。
さて、私が送ったアイテムはといえば……
「あぁ、そのまま
『今のはシズク殿が? まさか失われた転送魔法か!?……ってこれは!!』
リベルトさんの足元に転がっているのは、私が選んだ画像のアイコンと同じ薬瓶や剣たちだ。それらを見たリベルトさんの目が大きく見開く。
『この箱にある瓶は……やはり、上級の回復薬だ!! それにこっちはミスリル製の剣ではないか! も、もしやこれらを我々に……?』
「え? あ、はい。どうぞお使いになってください」
ゴチャゴチャと転がるアイテムの中から、リベルトさんはバラの銀装飾がされた剣をうやうやしく取った。
『す、素晴らしい逸品だ……まさか生きてミスリルの剣を見れる日が訪れるとは……』
「そこまでなんですか!?」
なにやらブツブツと呪文を呟いていたけど、あれは鑑定の魔法だったのかな?
『いや、ミスリルはエルフにとって特別なのでな。誰かに送る場合、結婚の申し込みにも用いることがある』
「ぶふっ!? け、けっこん!?」
随分と熱の篭もった瞳でその剣を見つめていると思ったけど、あの剣にそんな意味があったの!?
「い、いや……その。そんな意味があるとは知らなかったというか……」
『そうか……残念だ』
「ええっ!?」
いやいや、ちょっと待ってよ? いくら好みドストライクのエルフと言えど、さすがに初対面のキャラに婚約指輪並みのアイテムを餌付けしたとは思わなかったよ!
リベルトさんは良いエルフだけど、そういうことはもっと好感度上げてからっていうか……。
こちらが戸惑いの声を上げたせいか、リベルトさんはしょんぼりと眉を下げた。
ちょ、やめて。悲しい顔は私に効く。
言い訳をしようと口を開きかけたその時。彼は悲しみの顔を一変させ、急に笑い始めた。
『ははは、冗談だ。だが、これは私が大事に使わせてもらっていいかな?』
「むむっ、別に無理に使わなくても良いですけど!?」
『意地悪は言わないでくれ。それにこの剣は本当に素晴らしい。私に預けてもらえると嬉しいのだが……駄目か?』
なんですか、そのおねだり!!
恋をした乙女みたいに、頬を染めた顔で私をチラチラ見るのはやめて!?
『こっ、これは……』
私が悶えている間に、リベルトさんは次のアイテムを手に取っていた。
それは一番レアリティが高そうな虹色のアイテム、エメラルド色の宝珠だった。
普通の宝石でもなさそうだし、どんなアイテムなんだろう?
『ありがとうシズク殿。転送魔法を使ってくれただけでなく、貴重なマジックオーブまで届けてくれるとは。これがあれば、我が軍は勝てる――!!』
「あの~、リベルトさん? その、マジックオーブってなんですか?」
だけど私の質問は彼に届いていなかった。
宝珠を片手に立ち上がると、戦場の中をどこかへ向かって走り始めてしまった。
ちょっと待ってよ、私にそのアイテムの説明は!?
まさかのプレイヤー置いてけぼりですか!?
『リベルト師団長!!』
『すまない、お前たち。待たせたな』
リベルトさんが向かった先にいたのは、仲間のエルフたちだった。
身に付けている鎧はどれもボロボロ。せっかくのイケメンなのに、誰もが土と血でまみれている。戦闘の激しさと悲惨さを表すように、疲労が顔色に表れていた。
だけどリベルトさんが来たと分かると、彼らから喜びの声が上がった。
『師団長!! それで同盟軍は、俺達を助けに来てくれるんですか!?』
一人がリベルトさんに声を掛けた。
お、さっきチラッと見掛けた弓エルフだ。
だけど目を怪我したのか、眼帯をしているね。いいわね~、眼帯エルフ。ソソる!!
彼を攻略するルートもあるのかしら?
……そんなことを考えていたら、弓エルフの後ろから深紅の鎧をしたエルフがやってきた。
『無駄な期待はよせ。どうせ今から救援が来ても、現在の兵力では間に合わんだろうが……リベルト様。ここは私達に任せ、どうかリベルト様だけでも安全な場所にお下がりください!』
おおっ、カッコイイ!!
深紅鎧はキリっとした顔のエルフだ。
インテリな眼鏡もしていて、めっちゃ仕事ができそう。
一方の弓エルフは、一喝されてしょんぼりとしている。ふふふ、可愛い。
『諸君らを置いて、私一人で逃げられるものか! それにこれを見ろ。心強い味方から支援物資を得たぞ!!』
『師団長、今さら支援物資などでこの戦況は……えっ!? 待ってください。それってまさか、マジックオーブなのでは……!?』
えっ、なになに!? 急にどうしたの?
『総員退避!! リベルト様がオーブを使うぞ! 味方に殺されたくない者は、今すぐ負傷者を抱えて走れェー!!』
ちょっ、だから私を置いて行かないで!?
今度はインテリ眼鏡さんが急に指示を出し始めたんですけど!?
『リベルト様、私が周囲の露払いをいたします』
『あぁ、頼むぞルーク』
「ちょっとリベルトさん? そのオーブでいったい何をするつもり――きゃあっ!?」
直後、スマホ越しに雷鳴の音が轟いた。
爆音に驚いた私は、思わずスマホを取り落としてしまう。
「な、なんなの……!?」
画面上では眩しいくらいの真っ白な光がピカピカと
『――あぁ、シズク殿を驚かせてしまったか。申し訳ない、事前に一言申し上げるべきだった』
「えっ、なんですかこれ? 爆発ですか!?」
『さっそく頂いたマジックオーブを使わせてもらったんだ。貴殿のお陰で、敵の大半は消し炭に。もう半分も追走を始めたよ』
えぇ~? 私のお陰って……あの緑の宝珠が、あの爆発音を引き起こしたってこと!?
まったく状況が掴めない私はポカンとしてしまう。
リベルトさんは口を開けてアホ面を晒している私を見て、クスクスと笑い始めた。
『ほら、これを見てくれ』
リベルトさんは私にも見えるように、手に持った魔道具を戦場へと向けた。
「うわぁ……」
まさに死屍累々。
もはや原形をとどめていない敵だったナニカが、戦場となっている草原のオブジェと化していた。
『あーっはっはっは! いい気味だ魔族共。
画面の端の方では、逃げ回る敵を追いかけ回しながら氷の
『あー……ルークは私の副官なのだがな。一度スイッチが入ってしまうと、私でも手が付けられなくなってしまうんだ』
「はぁ……スイッチが、ですか……」
それって副官としてどうなの?
やっていることは最前線での暴走である。
ルークさんは炭になったスライムらしき物体を足で踏みつけ始めた。リベルトさんもさすがに気まずくなったのか、魔道具が映す範囲からルークさんをそっと外した。
うん、もう手遅れだと思うよ。
私の中の知的で冷静なエルフ像なんて、とっくに崩れていたし。
『……アレで普段は非常に優秀なのだがな。ところで、シズク殿。先ほどのオーブなのだが、もしかして他にも持っていたりするのだろうか』
「え? さっきの……ですか?」
さっきガチャで出てきたアイテムは残り七個。だけど上のランクから三個を選んだので、虹ランクのオーブはもう残っていない。
「ごめんなさい。お渡しした分しか、私の手元には……」
『あぁ、いやシズク殿が謝らないでくれ! こちらこそ催促をするような言い方をして、非常に申し訳ない!』
ゲームだから、課金で運が良ければまた出てくるかもしれないけど。
まだゲームを始めたばかりの私には、自信をもって出せるとは言えなかった。排出率とか正直分からないしね。
だけどゲームのキャラにそれを言っても通じないよなぁ。
さて、どうやって伝えよう。
『指揮官という立場でこんな事を言ってはいけないのだが……今回は勝てたとはいえ、かなりギリギリの戦いだった。多くの仲間と物資を失わせてしまったしな。これはすべて、私の責任だ……』
……命を預かる責任かぁ。
平和ボケした国に住んでいる私には到底理解できないことだ。
死んでしまった人はもう帰ってこない。
いったい彼の肩には、どれだけの重みが乗っているんだろうか……。
涙もろい私はゲームだということを忘れ、つい感情移入してしまっていた。
『あぁ、やめてくれ。貴殿をそんな辛い顔にさせるつもりはなかったんだ。私の仲間の為に泣いてくれるのは有難いが……』
え……? ちょ、ちょっと待って!?
流れ落ちそうだった涙も思わず引っ込んでしまった。
これまでのやりとりでも違和感があったけど、さすがに今回は聞き逃せない。
リベルトさん、今なんて言った!?
「あ、あの……どうして私が泣いているって分かるんですか!?」
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