タハラソウイチロウと私。

シーラ

第1話

タハラソウイチロウと私

ーーー



「いいですか?僕の言いたいのは、今の日本は…」


温かな日差しが降り注ぐこの長ソファーは、私の定位置。フカフカクッションの上で寛いでいると、隣にタハラソウイチロウが座ってきた。今日もか。


「そうしてね、現代の若者にだね…」


トントンと左の人差し指で自分の膝を叩く。頭の中を整理しながら、一生懸命お話ししている。

少し低めで同じトーンで話すこの口調。私、好きよ。尻尾をクルンと動かして、相槌をする。


「うんうん。君は私の話をよく理解しているようだから、これも話しておく…」


言っている事はよくわからないけど、彼はいつも真剣なの。


「僕の言いたいのはだね…」


少しずつ声のトーンが上がってきた。私はすっくと起き上がる。彼の膝の上に乗り、尻尾を彼の頬に擦り寄せる。大丈夫よ、落ち着いて。私の気持ちを伝えてあげる。

すると、タハラソウイチロウは虚をつかれたような表情になった。私の目を見て、渋いような苦笑いをする。


「…………いや、ウチの猫ちゃんがね。いや、少し話を整理しようか。」


タハラソウイチロウの声がいつものトーンに落ち着いた。さて、私はクッションに戻り丸くなる。この声を聞きながらポカポカ日差しの中のお昼寝。私の一番幸せな時間。


「……はい。では、お疲れ様。」


どれくらい経ったかしら。タハラソウイチロウは箱とお話を終えると、手に持っていた物をソファーの側にあるテーブルに置く。

グンと両手を伸ばして背伸びをする姿に、年齢を感じる。


「さて、と。」


立ち上がり、タハラソウイチロウは台所に向かう。きっとお茶を飲むのだろう。暫くして、シューシューとお湯の沸く音と冷蔵庫をガチャリと開ける音が聞こえた。


「よいこら、と。」


カップと皿を持ってタハラソウイチロウが戻ってきた。私の隣にまた腰掛けると、カチャカチャと食器を少し鳴らしながら何かを食べ始める。


「うん。やっぱりモンブランは、この店だな。」


普段のタハラソウイチロウはこんな感じ。口数が少ない。そんな彼も好き。


この穏やかな空間を共有できる喜び。幸せだわ。


「こんな年寄りの食べる所を見て、何が楽しいのやら。」


カップを傾けつつ、私に少し呆れたような口調で話してくる。私ね、タハラソウイチロウの動作を目で追うのも好きなの。


私を時折り見つつ、タハラソウイチロウはお茶を終えるとソファーに深く腰掛けて目を閉じる。少し休憩するようなので、私は彼に乗り寄り添う。


好きよ、タハラソウイチロウ。


ーーー


「なあ、さっきの電話。田原さんだろ?」


「ああ。猫を飼いだしてから本当に変わったよな、あの人。丸くなったというか」


「病気持ちの猫を保護して、手厚く看病してるようだぞ。ほら、俺の家にもエイズ持ちの猫3匹いるだろ。色々聞かれたよ。

半月持たないと思ってたのに、もう一年経つんだもんな。あそこまで手をかける人だと思ってなかったよ」


「凄いよな」


「凄いよ」


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