しっくすせんす
黒幕横丁
与(平)太話
昔、とある村に与平太という若者がおった。与平太は日がな一日家でゴロゴロとしていて、全く働く様子も無く、お腹がすいたり何か物が欲しくなったりするときなどは、街などへ行き、人々と賭け事をしていたんだと。
賭け事の内容は、花札の絵柄当て。挑まれたほうが花札を一枚選び、与平太に見えぬようにして、与平太がその柄を選べば見事賭けは与平太の勝ちとなる。その勝負に与平太は己の持っている全財産を賭ける。負けてしまえば自分は一文無しになってしまうのだが、不思議なことに今まで一度も負けたことが無い。
不思議に思った街の人は与平太に賭け事に負けないコツでもあるのかと訊ねた、与平太は、
おらにはなぁ! 天性から備わったしっくすせんすってやつがあるんだぁ。だから、この先が見通せるってやつよぉ!
と大層自慢そうに言うのであった。人々はまさかこんなヤツにそんな不思議な力が備わっているなんて思いはしなかったが、連戦連勝していく与平太をみると少々怖くもなっていくのであった。
そんな与平太に不思議な力が備わっていると少しずつ広まり始めた頃、街では珍しい、旅の劇一座がやってきた。どうやらこの街で公演を始めるらしい。少し街が活気付いている中、今日も与平太は飯にありつこうと集る相手を探していた。その前に一人の青年が立つ。与平太が顔を上げるとこの街では見ない顔だ。なんとも小奇麗な浴衣を着ていた。
あ? なんだおめぇ。もしかしてココでお芝居するっていう旅の一座ってやつか。
青年はニッコリと微笑み。あぁ。と答えた。
君がこの街で噂になっている与平太か。なにか不思議な力が備わっているときいている。どうだろうか、この僕と勝負してくれないだろうか? と青年が勝負を持ちかける。与平太もちょうどお腹が空いていたところだったので、良いぞと勝負に応じた。
与平太は賭け事のルールを口にしようとすると、青年は知っているから大丈夫だという。与平太は誰かから聞いたのかと少し不思議にも思いながら、賭け事を始める。青年には近所の茶屋で与平太に飯を奢ること、与平太はいつも通り全財産をかけてスタートをした。
結果は当然与平太の圧勝であった。青年が選ぶ花札の柄を全て言い当てた。いつもだと、人々は驚いた様子で与平太を見るのだが、今日の青年は何故か、なるほどと呟いて与平太を見る。
な、なんだよ。と少し怯える与平太。青年は、答えがわかったんですよと笑う。
貴方、花札の全48種の裏側に見分けがつくようにキズをつけていますね?
青年の言われた言葉に与平太の心の臓の鼓動が途端に早くなる。そう、与平太は花札の裏側に自分しか分からないキズを全ての札に刻み、ソレを全て暗記しているのだ。だから、どの札がきても絵柄を当てられるのである。今までそんなこと言い当ててくるヤツなんで誰一人居なかったのだ。
な、なんで分かったんだよ。と与平太は青年に聞くと、青年は微笑みながら貴方の目が明らかに札の何かを数えているように見えたのでと答える。
賭け事には勝ったのだが、タネがばれてしまって、与平太はがっくりと大きく肩を落とす。
48種類も札を覚えるのも大変だったでしょう。その努力は他の所で生かしてみてはどうですか? 与平太さん、貴方は昔、村の学校では神童って呼ばれていたんでしょう?
なんで、おめぇがそのことを知ってるんだぁ? 街の誰にも言ったことねぇぞ?
与平太の秘密を見ず知らずの青年に知られている。そのことがとても恐ろしいくなって震える与平太。
青年はニッコリと笑いながら。
実は僕、人の過去が見えるんですよ。と悪びれる様子も無く答えた。
そう、青年は本当の力の持ち主で、与平太の話を街の人から聴き、もしかして同士なのかもと勝負を挑んだ次第だったのです。まぁ、見事、空振りだったのですが。
さて、本物と対峙し、見事にネタを明かされて観念した与平太は賭け事から足を洗って、村で改心したかのように働き始めたとさ。
おあとがよろしいようで。
しっくすせんす 黒幕横丁 @kuromaku125
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます