正解はどれだ!
夏緒
正解はどれだ!
「見てみて枝豆くん! これ、誰のでしょーうかっ」
というおからちゃんの陽気な問いかけに、俺は思わず硬直した。
だ、誰の……? きみのだろ。
と言いたいが、果たしてこの答えで合っているだろうか。
おからちゃんの手のなかには、ひと組のピアスが乗っている。金色のひし形で、プラプラ揺れるタイプのやつっぽい。正直見たことがない。
ピアスなんぞいちいち見てねえわ。きみのだろ。いやしかし。
もしや昨日勢いで宅飲みしたミルフィーユちゃんのやつだろうか。
どこにあったんだそのピアス。うちか? うちの床で今拾ったとでも言うのか。いやでも違うぞ、ミルフィーユちゃんとは本当に楽しく宅飲みしただけで、誓ってやましいことはしていない。未遂だ。だってミルフィーユちゃん飲み過ぎて最終的にトイレで吐きまくってそのまんま寝てたし。今朝早く起きたときの彼女は哀れ以外のなにものでもなかったわ。
「それ……どこにあったの……」
「いやだなあ枝豆くんたら、そんな野暮なこと聞かないで。あなたならわかるでしょ」
お願い教えて。それどこにあったの。それによって俺の答えは随分変わってくるぞ。
おからちゃんのだと思う。おからちゃんのだとは思うけど、でもそんなもんがおからちゃんの耳についてたことがあるかないかわからない。
それに、おからちゃんのであればわざわざこんな聞き方するだろうか。誰のって、自分のじゃないってことか。
そしたらやっぱりミルフィーユちゃんのか? ミルフィーユちゃんがたまたまうちに忘れていって、それをたまたま見つけたおからちゃんはいわゆる女の第六感ってやつで俺の浮気を疑っているとでもいうのか。いつでもニブイくせに本当こういうときばっか能力発揮しやがって、しかも当たってねえし、こっちはたまったもんじゃねえぞ。
いやいや、まじで昨日はなんもしてないから。でもそんなことを言ってもおからちゃんは果たして信じてくれるだろうか。こないだ似たようなことして怒られたばっかだからな。これはまずい予感がする。
昨日ミルフィーユちゃんどんな格好してたっけ。
思い出せ、思い出せ俺。こんなピアスつけてたかなあ、いや、いや……
う、うおおおおおおおおあお思い出せるわけねえだろいちいちそんなちっせえもん見てねえわ!!
だめだ、記憶には頼れない。ここは俺も第六感ってやつを発動するべきか。こういうときこそインスピレーションを大事にしろ。
どう答えるのが正解だ。シラを切るべきか、きみのだろって言うべきか、それとも素直に宅飲みを認めて浅いうちに傷を晒して済ませてしまうか。
どうする、どうする俺。シラを切ってみるか。
「あの、……」
「枝豆くん、本当にわからないの?」
その声のトーンで俺ははっとしたよ。
おからちゃんが悲しそうな顔をしている。俺は一体なにを考えていたんだ、かわいいおからちゃんにこれ以上うそをついてまた傷つけるつもりなのか。
そうだな、同じことを繰り返そうとした俺が悪かったよ、ごめんなおからちゃん。
「ごめんおからちゃん。でも聞いてくれ、誤解なんだ」
「は?」
「そのピアス、もしかして床に落ちてた? でも違うから話を聞いてくれ」
「……ねえ、枝豆くんなに言ってんの?」
「え?」
「は?」
おやおや、おかしいな。おからちゃんがさっきと違って目を見開いている。
「枝豆くん、これはわたしのだよ。昨日届いたから自慢しようと思って持ってきたの」
その言葉に俺はすべてを理解した。頭のなかでキュピーン!! と音がしたと同時に滝のような冷や汗を感じる。俺の第六感がけたたましく警鐘を鳴らしている。やらかした。
「あ! ああああああわかった! わかったあれだろほら、ゲームのキャラのやつ! な!? こないだネットで買うって言ってたもんな! あれだろほらぁ、あの三日月の人のやつだろ、HAHAHA――」
「ちっがうし!! これは新選組の……、いや待って、今そんなことどうでもいいわ。枝豆くん今なにを言おうとした? これ床に落ちてんの? わたしなにか誤解をしてるみたいだね? へえ〜詳しく聞こうか」
「いや、頼む落ち着いてくれ」
おからちゃんが腕を組んで仁王立ちになってしまった。なんということだ。取り敢えず座ろうかと言われて、俺は仕方なしに自分の部屋の床に正座をする。
「俺はもしかして、墓穴を掘ったんだろうか」
「そうらしいね。まずは言い訳から聞こうか」
勘なんてアテにならないな。なにが第六感だ。いや今の俺ならひとつだけ確信できるものがある。
俺は今から一時間近く正座だ。足が死ぬ。
おわりっ
正解はどれだ! 夏緒 @yamada8833
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