せっくす♡センス

華川とうふ

幼馴染と二人きりの部屋で

「セックスセンスってかっこいいよね!」


 幼馴染のかなえちゃんは、第六感シックスセンスをいつも言い間違える。

 子供のときのままなのだ。

 二人であの映画をみたのはずいぶん前のことになる。

 かなえちゃんは第六感が欲しいらしい。

 僕も昔そういう力に憧れたことがあった。自分だけの特別な力があったらいいのに……誰だってそう思うだろう。だけれど、大抵は成長とともにそんな力はないと思ってあきらめたり、卒業する。


「シックスセンスね」

「……!」


 僕はとりあえず、訂正を入れるけれどかなえちゃんは多分またまちがえるだろう。

 だけれど、かなえちゃんは許される。

 美少女だから。

 もし、かなえちゃんにそんな特別な力が宿れば超能力少女とかいってテレビに引っ張りだこだろう。

 そうしたら、寂しくなるなあと思いながら僕は高校の制服のネクタイを少しだけ緩めた。ちょっとだけ、息が苦しい気がしたのだ。


 僕とかなえちゃんは家が隣同士だった。

 子供のころからずっといっしょで、仲が良かった。

 かなえちゃんの手は小さい。

 子供のころはよく手をつないでいた。

 小さなころ親たちがはぐれないように、道に飛び出したりしないように外にでるときは手をつなぐ約束をさせたから。

 それは小学校に入ってからも続いていたけれど、ある日まわりにからかわれてから僕たちは手をつなぐことはなくなってしまった。

 それまでも「夫婦だ」とかからかわれていることもあったけれど無視していた。

 だけれど、なぜかその時だけは恥ずかしくなってしまったのだ。


 僕たちは手をつながなくなっても仲は良いままだ。

 こうして毎日、かなえちゃんは僕の部屋に話にくる。


 かなえちゃんは部屋の隅っこに座る。

 そこが定位置なのだ。

 狭いところが好きなんて猫みたいで可愛い。

 だけれど、膝を抱えて体育座りをしているせいで、制服のスカートの中が見えてしまっているのは少し良くないと思う。

 淡い水色と白のギンガムチェックのパンツが少し見えてしまっている。


 だけれど、何度言っても直らない。


「パンツ見えているよ」

「もうーみたなっ!」


 ぷんぷんと怒ったしぐさをするかなえちゃん。

 この会話は昨日もした。

 だけれど、怒ったしぐさをしてほっぺを膨らますかなえちゃんは可愛いからよしとする。

 僕が黙っているとかなえちゃんは、ちょっとだけ上目遣いでこちらを見つめる。


「ねえ、ちょっとえっちな気分になった?」


 きっと、かなえちゃんは精一杯に色っぽい雰囲気を作っているだろう。

 だけれど、ブラウスの第二ボタンまでがあいていて上目遣いをしてもかなえちゃんは全然色っぽくない。

 なんせ胸はつるぺたのままだし。

 僕は困って苦笑いをする。


「かなえちゃん……大好きだよ」


 僕はかなえちゃんの欲しがっている言葉を口にする。

 かなえちゃんは真っ赤になる。

 やっぱり可愛い。

 染めたことのない瑞々しい黒髪。華奢な躰。穢れをしらない純粋な笑顔。

 かなえちゃんはこの先、きっと変わることなんかない。

 無垢で綺麗なままの女の子だ。


「……結婚してくれる?」


 かなえちゃんは泣きそうな顔で僕を見つめる。


「もちろん」


 僕は涙をこらえてほほ笑んだ。


 かなえちゃんは僕に抱きつこうとする。

 僕も彼女を抱きとめられるように手を広げる。


 だけれど、かなえちゃんの手は僕をすり抜ける。

 温もりもない。


 彼女はもう死んでいるから。

 あの日、僕が手をはなしてしまったから。

 なんであの日、手をはなしてしまったのだろう。

 かなえちゃんのことが大好きだったのに。

 ずっと一生となりにいると思っていたのに。


 あの日、僕が手をはなしてしまったせいでかなえちゃんは死んでしまった。


 かなえちゃんはこうやって会いに来てくれている。

 小学生の姿のまま。

 あの日と変わらない姿のまま。


 僕たちは抱きしめあうこともできない。


「……やっぱり、せっくすせんす欲しいなあ」


 かなえちゃんの悲しそうな声が聞こえた気がした。






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せっくす♡センス 華川とうふ @hayakawa5

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