扉の向こう

@buticat

第1話扉の向こう

誰かが玄関ドアの前に立っている。

ソレがいるのに気づいたのは、風呂場から出た直後だった。

俺の住んでいるボロアパートは、風呂場から出て左側がすぐ玄関という構造で、冬はドアの隙間から風が入ってきて、あっという間に体が冷えてしまうだろう。

玄関ドアは緑色だが、所々ペンキが捲れて、赤茶色が覗く。

誰かが玄関のドアの前に立っている。

なぜそう思ったか?

そんなことは俺もわからない。あえて言うなら、第六感というやつだ。

しかも、何だか胸がざわざわする。嫌な感じ。

忍び足でドアに近づく。

覗穴からそっとのぞくと……俺は声を上げそうになった。

長い黒髪に色白の整った顔立ちの若い女。髪はグッショリ濡れているのが、ドア越しでもわかる。


俺は……勢い良くドアを開けた。


彼女は皺だらけの白いワンピースを着ていた。髪からの水滴で、ワンピースも濡れている。大きな目を更に大きく見開き、血走った目で俺をじつと見つめ……野太い声が聞こえる。

「警察だ! 不法侵入で逮捕する!」

男が……彼女の横から警官姿の男が飛び出し、俺の腕と肩を掴んだ。

やっと俺は事態を把握した。

隠れてたんだ。覗き穴の死角に。

彼女は……その場に蹲っていた。髪からの水滴のせいだろう。彼女の回りには水溜まりが出来ていた。

ああ、なんで……君の為に風呂場も掃除して待ってたのに……一晩中。

「まさかまだ部屋にいるとはな……彼女が風呂場から逃げてから、何時間居座っていたんだ」

警官の言葉は俺の耳には入らなかった。

俺の第六感は当たったんだ。

嫌な予感がしてた。




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