強くなる理由。

「僕はヘリオスといいます! あの、さっきの魔法、一体どうやったんですか!?」


 勇者は赤毛野郎(確かクレイって言ってた)の手を握り返すことも忘れて、さっきのすごい火の魔法を詳しく聞こうと、ずいずいと詰め寄っている。


「もう、ヘリオスさん。ちょっとお行儀が悪いですよ?」

「え? あ! あぁ、ごめんなさい!」


 武闘家に耳打ちされて、勇者は慌ててクレイの手を握り返した。クレイは大して気にしてないみたいで「いいよ、いいよ」と笑ってから、


「どうって言われてもなぁ。俺も君くらいの時は全然、いや今の君よりも、魔法は本当に扱えなかったし」

「本当ですか!?」

「ここで見栄張って嘘つく必要はないしね」


と勇者の手を離してから、さらに壊れてしまった扉から外に出た。

 来た時にはほんの少しの先も見えなかったのに、今は嘘みたいに雪はやんでいて、なんなら空からは日光が差し込んでいる。

 晴れてきた空を確認したクレイが「それじゃあね」と去ろうとするのを勇者が「待ってください!」と服の裾を掴んで引き止めた。カクン、と引っ張られたクレイの口から「んぐ!?」と蛙が潰れたような声が漏れた。


「どうすれば、貴方みたいに魔法を上手く扱えるようになれますか?」

「んんん!? とりあえず、ちょっと、離して……」


 勇者が離してくれたことで、クレイが少し咳込んで、それから「んー」と困ったように頭を掻いた。


「君はさ、なんでそんなに魔法を上手く扱いたいのかな」

「それは……」


 勇者は少しだけ俯いて、でもすぐに僕たちの顔を一人一人、しっかりと見回した。


「友達を、失くしたくないから。四天王に会っても、今度こそちゃんと守りたいから」

「四天王に……? あぁ、なるほどね、そっか、それは大変だ」


 クレイは何か笑いを堪えた様子で、それでいて心底嬉しそうに目を細めて笑った。


「“黄の国”に、俺の古い知り合いがいる。俺の魔法は、その知り合いに鍛えてもらった感じなんだよ。まぁ、ちょっと変わってるし鈍臭いとこもあるけど、魔法に関しては保証する。それこそ、四天王の、アビスにも引けは取らないはずだ」

「なんでアビスって……」

「そりゃあ、あれだ、四天王で魔法とくればあいつしかいないからね。大変だとは思うけど頑張って。応援してる」


 そう言って、クレイは少し嬉しそうに笑った後「じゃあね」と今度こそ背を向けた。去り際のその背中から「俺の名前、出すの忘れずにね!」と手を振って。



 ※



「ちょっと、どこ行ってたのよ!」


 少しきつい物言いに、俺は苦笑いしながら振り返る。まだ幼さの残る面持ちの黒髪黒目の少女、リアナは、昔からの仲間だ。


「どこってそれは、スノウレディとデートに決まってるでしょうが」

「いたの!? どこに!? 早く見つけないと!」

「もう終わったよ」


 リアナは「そう……」と一瞬目を伏せたものの、すぐに鼻を鳴らしてから、


「全く、それなら早く言ってよね! そんなんだからお兄ちゃんはモテないのよ!」

「えー、それ関係あるかなぁ」


 確かに彼女いない歴と年齢が比例してはいるけれど。

 俺は笑いながら、リアナの頭を優しく叩いて、早く歩けと促す。雪が止んだとはいえまだ寒い、早く帰りたいのは俺だってそうだ。


「なんか嬉しそう……?」


 叩いている手を振り払ったリアナが、俺を覗き込んで変な顔をした。


「ん? いや、あぁ、例の少年に会ったんだよ。四天王から友達を守りたいって言ってたから、あいつを紹介しといた」

「ちょっとまた余計なことして! リッくんに睨まれても知らないんだから!」

「もう睨まれてるから怖くありませーん」


 昔みたいに拗ねた言い方をしてみせる。リアナが少しお姉さんじみた態度で「もう」と頬を膨らませる姿に、俺はまた笑う。


「ルーちゃんと合流して飯にしよっか。あ、また昔みたいにあいつに頼んじゃう?」

「駄目だったら!」


 笑い声が響き渡る。行く先で青髪の、しかめっ面をした美人な彼に、怒られるまで。

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