白と白と僕。

 雪は更に強くなっていって、手を繋いでいるはずの勇者の姿さえも見えない。微かに繋いだ部分だけが見えていて、手を離せば僕らも迷子になりそうだ。


「レイシィ! 大丈夫かい!?」

「……」

「そっか、ならもうちょっと早く歩くよ!」


 会話は出来るようで大したものだ。

 僕は口を開けただけで寒かったから黙っていることにした。


「あれは……村……?」


 先を歩く勇者がそう言ったのが聞こえた。もちろん村なんて見えない。

 ザクザク進んで、それが僕にも見えてきた。それは、村というより、なんだろう、おっきい建物を中心に家が建ってる場所だった。

 けれども、どの家にも人は住んでなさそうだ。


「おーい、クライフ! ルクリア! 隠れてるのかい!」


 ある意味隠れてるのかもしれないけど。

 この雪の中だ、どこかの家にでも入ってるかもしれない。

 身近にあった家に入ろうとしてみたけれど、誰も見当たらないのに鍵はかかったままだ。もちろん、他の家も同じ。

 気味が悪くなって、僕は全身の毛を震わせた。


「……あの建物に行ってみよう」

「……」


 そう見上げた先にある、少し古くなった白い大きな建物は、まるで偉い人でも住んでたかのような、そんな建物だった。

 ひときわ大きな入口は壊れていて、入れたのは幸運だったのかもしれない。建物は外はボロボロだったけれど、中はそれほど崩れていなかった。


「ここは……教会、かな?」


 高い天井や綺麗なガラスを見ながら、時折散らばっている木片に注意しながら勇者は言った。ちなみに手はもう離した。


「クライフ! ルクリア!」


 声が反響して吸い込まれていく。

 建物に吸われる、というより雪で音が消えているような、そんな不気味さに、僕は僧侶の懐で縮こまることしか出来ない。


「……ぃ、ぉー……」

「声が聞こえる! 二人かもしれない。こっちだ!」


 勇者が更に奥へ歩いていく。床は破片があって危なそうだし、僕は今回下には降りないでおこう。

 少し広い場所へ出た。

 椅子がたくさん並んでて、奥にはなんか机? 台座? がある。壊れてる椅子は、なぜか少し腐っていた。

 その場所に、二人はいた。


「よかった、二人とも」


 二人が振り返った。武闘家が安心したように胸を撫で下ろす。


「いやー。すまねー、つい楽しくなっちまって」

「ついじゃないですよ! こんなところまで来てどうするんですか!」


 いつも通りの二人に、勇者の表情が少し和らいだ。けれど、二人が見ていたものが気になったのか、勇者も二人に並んで先を見つめる。


「女の、子……?」


 真っ白いワンピース、真っ白な髪、真っ白な目。それだけでも怪しいのに、その子はなんと素足で立っていたのだ。


「迷子かもしれないので、街まで一緒に帰ろうかと思いまして……」


 迷子? こんな奥地に小さな女の子が一人で?


「あやちい……。ゆうちゃ、あやちい!」


 絶対に怪しいのに、この能天気勇者は屈んで女の子と目線を合わせた。


「フロイ、そんなこと言っちゃ駄目だよ。でもそうだね、とりあえず雪がやむまでここに」


 いようと勇者が言いかけた時だった。

 バタン! とひときわ強い風が扉から入り込んで、雪が僕らの周囲を回りだした。


「うおっ、なんだこりゃ!」

「皆気をつけて! 魔物かもしれない!」


 勇者が剣を構える。魔法使いも杖を握った。


「今度はお兄ちゃんたちが遊んでくれるの?」

「え?」


 女の子が不気味に笑った。それに合わせるように雪は強くなっていく。

 勇者が剣で雪を切ろうとするけど、やっぱり予想通り切れない。魔法使おうよ!


「ゆうちゃ、まほう!」

「魔法? そっか、よし……、火炎かえん!」


 勇者が火の五級魔法を口にする。ずびっと立てた指先に炎が灯るけれど、この強風の中ではすぐに消されてしまった。


「駄目だ……。もっと強い、強い魔法じゃないと……」


 悔しげに零した言葉に、隣で聞いていた魔法使いが「諦めんな!」とコートを脱いで杖に巻きつけた。

 まるで旗みたいになったそれを、雪に向かって振り始める。器用にコートに雪がくっついて、取り囲んでいた雪はさっきよりも少なくなったようだ。


「よし今だ、走れ!」


 少し空いた隙間を縫って、僕らは入口に向かって走り出した。

 後ろで女の子が「うふふふふ」と笑っている。怖い怖い怖い! 冷凍保存されるのは勘弁だよ!

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