雪と雪玉と僕。

「おー!すげー!これが雪景色ってやつか!」


 闘技場の人から「お詫びに」と言われて渡されたお金で、僕たちは未だに“青の国”に滞在していた。

 地上に広がる一面の白い世界は、今まで見たことがないくらいに、本当に真っ白で、お絵かきしたら楽しいだろうなと最初は思った。

 最初だけ。

 すごく寒いし、息は白いし、このままじゃ僕の自慢の毛がつんつんになっちゃうよ。うぅ、寒い。


「クライフさんは見たことなかったんですか?」

「おー。ヘリオスと一緒で、緑生まれだからなー」


 確かに、あの国ではこんな白いもの見たことなかった。

 ちなみにこれは“雪”というらしい。これだけ寒かったら、確かに地下へ街を作ろうって気にもなるかもしれない。


「ということは、ヘリオスさんも初めてですか?」


 くるりと振り返った武闘家が、ちょっと自慢げに見える。勇者は両手を合わせて息をかけると、


「うん。本では読んだことあるんだけど……見るのも、触るのも初めてだ」


 そう言って、足元の雪をすくった。「冷たい」と苦笑いするくらいならやめればいいのに。


 まぁ、未だに僕らがここに、というか、なぜこんな寒い思いをしているかというと。

 例の大盛り酒場のおっちゃんが、今日は大雪で冷え込むから気をつけたほうがいいぞと笑ったのが始まりだ。


 雪を見たことない魔法使いがすぐに行こうと言い出し、誰も止める人がいないままこうやって地上へ出てきたわけ。

 「雪遊びするなら持ってけ」とおっちゃんが渡してくれたコートも、この寒さの前ではあまり意味がない。てかおっちゃん、知ってたなら止めてよ。


「雪って柔けーと思ってたんだが、こーやって握ると固くなるんだなー」


 魔法使いが足元の雪を握って、玉みたいなのを作った。当たったら痛そう……。


「おりゃ!」


 やっぱり投げやがった。


「いて! やったなクライフ!」


 勇者も習って玉を作って投げる。

 二人して元気だ。ちなみに僕は僧侶の懐からそれを見ている。この僧侶、筋肉あるからかあったかいんだよね。

 あ、空から雪が降ってきた。なるほど、雨みたいに降るのか。


「もう、お二人とも。遊ぶのもいい加減に……」


 腰に手をやって説教をしだした武闘家に、魔法使いが笑いながら玉を投げつけた。武闘家はあのヤバい動きでそれをかわして、無言で同じように玉を作って魔法使いに投げた。


「お前もやってんじゃねーか」

「やられたからやり返しただけです! ちょっと逃げないでください!」


 武闘家をからかいながら逃げていく魔法使い。追いかける武闘家。

 雪は次第に強くなっている。

 あれ、もしかしなくても、これヤバくない?


「ふ、二人とも!」


 勇者が引き止めようと手を伸ばす。けれど、段々霞んでいく景色に、すぐに二人の姿は見えなくなってしまった。


「二人を追いかけないと!」


 勇者は僧侶に向かって手を伸ばして、僧侶はその手をしっかりと掴んだ。僕はとりあえず、目だけ出すようにして、僧侶の懐に更に潜り込んだ。

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