洞窟と花と僕。

「それにしても、なんで君みたいな小さな子が一人で森に?」


 女の子を肩車した魔法使いを先頭に、僕たちは森のさらに奥へと歩いていく。杖は武闘家がしっかりと握りしめている。次第に薄暗くなる森に、僕の不安は大きくなるばかりだ。


「私、シャルルっていいます。ママが、具合を悪くしちゃって……」

「お母様がですか?」


 武闘家も心配そうに女の子、シャルルに視線をやる。うーん、本当に胡散臭くなってきたぞこれは……。


「はい。いつもならお薬が家にあるんですけど、今日はなくて……。パパもお仕事に行ってていなくて。それで……」

「そっかぁ、シャルルは偉い子なんだね。すごいよ!」

「そ、そんなこと、ない、です……」


 褒められ慣れていないのか、シャルルは恥ずかしそうに魔法使いの頭に顔をうずめた。

 そうして歩いていると、ぽっかりと真っ暗な穴が見えてきた。どうやらこの森、この国の中心にある山の麓まで続いていたらしく、この洞窟はその山に出来たもののようだ。いよいよ花が咲いているのか怪しくなってきたぞ。


「あ、この洞窟です」

「わぁ、真っ暗だ」


 入口からほんの一寸先も見えやしない。でもシャルルは違うみたいで「まっすぐです」と洞窟の奥を指差した。それに魔法使いが「シャルル姫」と苦笑しながら、


「どうやら姫の目は随分いいようですね。オレはともかく、こいつらには恐らく見えてないぜ?」


と目を細めた。

 シャルルの顔がサァと青ざめ「そ、それは」と口ごもる。ほら見たことか、やっぱり胡散臭かったじゃないかと、僕は「ゆうちゃ! ゆうちゃ!」と力いっぱい跳ねてみせる。


「魔法使い、どういうことだい?」

「なーに、オレらは目がいーってだけのことよ。な?」

「は、はい……!」

「てことでヘリオス、火をくれ」


 まるで問題なんてないとでも言うように、魔法使いが勇者に手を伸ばす。勇者は「うん」と僧侶から木の棒をもらい、それに魔法で火をつけた。

 それを魔法使いが受け取って、洞窟の先を照らすように掲げる。苔生した地面、天井から滴る水、見るからに硬そうな岩が、あちらこちらに生えている。


「ヘリオス、なんか来たら頼んだぜ」

「任せてよ」


 力強く頷いてみせた勇者が、魔法使いの隣に並ぶように奥へ進んでいく。武闘家は終始びくびくしていたけれど、入口に残されるのも嫌なのか、僧侶に隠れるようにしてついてくる。

 途中、天井から落ちてきた水がかかって、僕は「ちみたっ」と勇者の懐に潜り込んだ。


 そうしてだいぶ歩いた頃、洞窟のつきあたりだと思わしき場所へついた。

 そこは少し開けていて、湖が広がっていたのだ。中央に浮かぶ小島には、不思議なことに暖かな光が上から注がれていて、キレイな白い花が咲き誇っていた。


「あの花です!」


 嬉しげに指差すシャルル。勇者が「よし」と湖に近づき、何かに気づいた。


「誰かいる……? すみませーん!」


 小島の中心、花畑の中に、到底そぐわない巨体が揺らぐのが見えた。その巨体は勇者に反応するようにゆっくりと立ち上がり、その緑の仮面を、僕たちへと見せつけたのだ。

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