Season 1-3

女の子とお花と僕。

 “赤の国”に来てから、かれこれ二週間が過ぎようとしていた。というのも、なんと大陸間パスは、各国で個別に発行されているものらしく、僕たちが持つパスでは、“緑の国”と“赤の国”しか行き来できないというのだ。

 そんなわけで、また依頼をこなしながらお金を貯めているってわけ。そして今回の依頼は、この砂だらけの国にある唯一の森から、ある花を摘んできてほしいというもの。


「簡単な依頼だなー」

「クライフさん、いつ魔物がくるかわからないんですよ? 気を抜かずに……」


 サボる気満々の魔法使いに、武闘家がいつもの小言を漏らす。それに勇者が苦笑いをしながら、


「まぁまぁ。でも魔物がいるなら、僕らで少しでも倒しておきたいよね。そのほうが、村人たちも安心できるだろうし」


と道端の草花を確認していく。

 魔法使いは「へーへー」と少し離れた木の枝に座り、暇そうに伸びと欠伸をした。僧侶? 僧侶は薬草摘み。少しでも薬草代節約しないといけないし。

 僕は勇者の頭から降りて魔法使いの座る木の根本まで行くと、


「まほうちゅかい、さぼり!」


とぴょんぴょん跳ねた。


「ちげーよ。見張りだ、み、は、り」

「うそちゅき」

「あ? あんまうっせーと、くっちまうぞ」

「いやー!」


 こいつならやりかねない発言に、やっぱり指摘するんじゃなかったと後悔しながら、僕は勇者の頭に戻った。

 そんな感じで花を探してしばらく経った頃。うとうとしていた魔法使いが、何かに気づいたように木から降り立った。何事かと、勇者と武闘家が魔法使いを見つめる。僧侶は隅で、ゴリゴリと薬草を磨り潰している。


「……誰だ? 出てきな」


 魔法使いが、僕らの背後の草むらを睨みつけている。杖を握り、じりじりと距離を詰めたところで、


「ご、ごめんなさい!」


と慌てて出てきたのは、勇者よりも更に小さな女の子だった。

 女の子だと気づいた魔法使いが、杖を地面に放り投げて、王子様みたい跪く。ちなみに手もさり気なく握ってる。


「お姫様、こんなところになんの御用でしょうか?」


 なんだお姫様って。


「あ、あの、お花、取りに来たの……」


 女の子ドン引きしてるよ。

 そりゃそうだ、胡散臭いもんな、この脳筋。

 けれども、この脳筋魔法使いは大袈裟なくらいに頭を押さえると、


「あー、それは大変だ。確かにこれほど花も多ければ、見つけられるものも見つかりますまい。我々がお手伝いいたしましょう」


と勝手なことを言いだした。もちろんそんな暇はないし、てか花も見つけてないし……。


「ほ、本当? あのね、お花はこの先の、洞窟の中に咲いてるの……」

「洞窟?」


 なんだ、洞窟に咲く花って。そんな日光も当たらないような場所に咲くわけがないじゃないか、なんか胡散臭いぞ。


「ゆうちゃ、うさんくちゃ……むぐ!」


 勇者に胡散臭いと言おうとしたのに、あろうことか魔法使いが僕を鷲掴みして、何も言えなくしてしまった。


「むぐ、むぐぐー!」

「洞窟ねー、そりゃ見つからねーわけだ。よし、お姫様。ご案内、よろしくお願いいたしますよっと」


 僕を鷲掴みしたまま、魔法使いが女の子に笑った。相変わらず何を考えているのかわからないけれど、これって本当に大丈夫なのかな……。

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