Season 1-2
パスと防具と僕。
大陸間移動パスはどこにでも売ってるものじゃない。どこの国でも、他国への移動手段の拠点となる街があって、そこで売られてる。その街に来た僕たちは、パスを買うついでに装備も見ることにした。
武器屋にしても、お高いものを扱っているところとか、防具屋にしても、見た目重視のものとか、装飾品とか、色んな装備が店先にずらりと並んでいる。まぁ、僕はそんなの無くても強いから、あまり重要ではないんだけどね。
「ヘリオスさん、あっちの防具屋さんに行ってみませんか?」
「そうだね。色々見て回りたいし、問題ないよ」
「はー? お前またかよ! いい加減飯にしよーぜ」
武闘家の要望よりも、魔法使いはご飯のほうが大事らしい。でも今だけは僕もそれに同感だ。
だって、これで何件目だと思う? 祝☆二桁だよ? 前に魔法使いが「女は買い物なげーんだよ」とボヤいていたのを思い出して、確かにそうだなと実感する。
「いいですか、クライフさん! 防具は皆さんの命を守る、大事なものなんです! 武器と防具がないと、戦えないんですよ!」
盛大なブーメランだ。
「へーへー、そうだな」
適当に受け流す魔法使いを睨みつけたまま、武闘家は一ミリたりとも譲る気はないらしい。これが一食触発ってやつだな、勉強になる。
勇者もどうしたものかと、二人の間に入って「まぁまぁ」と言っているけど、張り詰めた空気は緩まない。パーティ解散の危機かもしれない。僕としては、勇者が一人になるなら願ってもないことだし、このまま放っておこうかとも思ったんだけど。
「しゃーねー、ここ見たら飯だかんな」
と魔法使いは渋々、頭をポリポリ掻きながら防具屋に入っていった。続く武闘家が「ありがとうございます!」と同じようにして入っていく。
勇者は僧侶に「よかったよかった」と柔らかく笑って、僕を肩に乗せたまま店へ入っていった。
なんというか、その防具屋は、少し独特な防具が置いてある防具屋だった。鎖がじゃらじゃらついてる服とか、ロウソクとか、武器屋でもないのにムチまで置いてある。
魔法使いが武闘家をからかっては、武闘家に平手打ちされている。なんだ、拳で魔法使いくらいは倒せそうじゃないか。
「うーん。これはなんの防具だろう。肌をこんなに見せるような防具じゃ、戦えないだろうに」
「なんだなんだ、知らないのか? これはなー」
「ヘリオスさんに変なこと吹き込まないでください!」
また叩かれてる。ほんと懲りない奴だ。
隅のほうで僧侶がロウソクを何本か見繕って、お会計を済ませているのが見えた。
「じゃ、二人共、ご飯にしようか。レイシィももういい?」
特に買うものもなかった勇者は、未だにふざけている二人に声をかけて、それから紙袋を受け取った僧侶を振り返った。
「あ、お客さん」
店員が話しかけてきた。無口な僧侶に代わって勇者が「はい」とカウンターへと近づいた。
「あんたら、もしかして新米冒険者さんかい?」
「はい、そうです!」
「そうかい、なら夜は出歩かないほうがいい。なんでも、街の裏手にある墓場でスケルトンが
「クイーンオブ……?」
首を傾げる勇者と僕。旅してきて、そんなの今まで聞いたことなかったけど。
ふざけあっていた二人も近づいてきて、話を聞こうと身を乗り出す。
「知らないんですか?」
武闘家が呆れ気味にため息をついた。
「今から七年前、新魔王が現れたのは知ってますよね?」
「え? そうだったの?」
「待てお前、一体何と戦うつもりだったんだ?」
珍しくツッコんだ魔法使いに、勇者はいつもと変わらない能天気さで、
「いや、伝説の剣があるってことは、そういうのがいるんだろうなって思って……」
「はぁ……?」
武闘家と魔法使いだけでなく、僧侶ですら小さくため息をついたのがわかった。ちなみに僕も呆れたのは内緒だ。
「こ、こほん。その時に仮面をつけた四人の配下と魔王がいたんです。国を上げて軍を送ったのですが、その圧倒的強さの前に敗走したんですよ。仮面をつけたその姿と力にちなんでそれぞれ異名がつけられました。それが
「てことは、女が二人いんのかー」
「貴方はまたですか……」
顔がにやつく魔法使いに、武闘家は呆れながらももう何も言わない。これはきっと死んでも直らないんだろうな。
「ねぇちゃん、詳しいな」
「え、えぇ、まぁ、それほどでも……」
なぜか武闘家はあやふやな返事をしたけれど、特に気にするでもなく、勇者は店員に一言二言お礼を言ってお店を出た。
その直後だ。勇者が誰かにぶつかったせいで僕は華麗に宙を舞った。
「いやー!」
「フロイ!」
僕はその反動のまま、地面になすすべなく転がってしまった。視界いっぱいに広がる真っ白い世界に狼狽えながら、
「な、なに……?」
と身体を縮こませながら言えば、ぶつかった相手であろう声が「何すんのよ!」と僕を容赦なく鷲掴みしてきやがった。
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